21世紀は「テロの時代」といわれている。世界各地で起きているテロを、なくすことはできるのだろうか? 毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』で、国連職員や国際NGOのメンバーとして「武装解除」の仕事に携わってきた東京外国語大学大学院総合国際研究科教授の伊勢崎賢治氏が、テロについて解説。さらに、伊勢崎氏が紛争地で行ってきたことについても寄せた。
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2001年の9・11以降、イスラム教徒への差別や偏見、排除が進んだことで、今、何が起きているのでしょうか? 最近では、ヨーロッパやアメリカで生まれ育った移民2世などの少数派が、アルカイダやISなどに感化されて起こす「ホームグロウン(国内育ち)・テロ」が発生しています。今後はこうしたテロも増え続けるでしょう。
テロは、異なる価値観の「正義」と「正義」がぶつかりあって起こります。もし、すべての人類に共通する「正義」があれば争いは起こりませんが、それはあり得ません。簡単に答えを見つけられる問題ではないでしょう。それでも、まずは世界で起きているテロの背景を知ること、自分とは異なる価値観について理解することが大切ではないでしょうか。
例えば、左に挙げた「コルタン」などの鉱石や「ケシ」などの農産物、ほかにも石油や天然ガスといった化石燃料――。私たちの暮らしに欠かせない資源の産地は、争いの絶えない国であることが多いです。そしてそこでは、強制労働や密売が行われ、そのお金がテロリストの資金源となることもあるのです。
今の社会では、「自由」があまりにも大きな力を持っています。本来、自由はよいことですが、私たちの自由や豊かさの追求が、誰かのグリーバンスを生み、それがテロにつながっているのかもしれません。私たちはそれを、見て見ぬフリをしてしまいます。そのほうが都合がよいからですね。
今後もテロはなくなりませんが、少しでもマシな方法を考えるなら、ある程度「自由の規制」をする必要があると思います。例えば、紛争地からの資源は取引禁止にするとか、銃規制を行うとか、方法はたくさんあるでしょう。
世界で起きているテロと私たちの暮らしのつながりにも、ぜひ思いをめぐらせてみてください。
■紛争地で私がしてきたこと
私はこれまで、タリバーン(※)政権が崩壊した後のアフガニスタンや、アフリカの紛争国シエラレオネ(※)などで「武装解除」という仕事をしてきました。武装解除とは、対立が起きている地に入っていき、争いをやめさせる仕事です。持っている武器をこちらに引き渡してもらうだけでなく、戦闘部隊を解散させ、社会復帰のためのプログラムも用意します。その方法を簡単に説明しましょう。
激しく対立している両者は、争いが長引いて疲れていても、互いの意地があるので「戦争をやめよう」とは言い出せません。そこで、頃合いを見計らって、第三者である私たちがリーダーに「もうこんなに死者が出たし、これ以上戦ってもいいことは一つもないよ」と交渉します。リーダーに納得してもらえたら、私たちが命令するのではなく、彼らに軍隊の武装解除を指揮してもらうのです。
武装解除後、アフガニスタンでは新大統領が誕生し、議員選挙も行われました。しかし、私たちにとって当たり前の「民主化」を押しつけることで、彼らに「白人たちはわれわれの言うことを全部否定する!」というグリーバンスが生まれて、再び武装化し、結局タリバーンは復活してしまいました。
世界最貧国といわれるシエラレオネには、夢も希望も持てず、人を殺すことが生きがいのような少年兵がたくさんいました。一度武器を手放しただけで、彼らは安心して暮らせるようになるのでしょうか? 周囲には、彼らに家族を殺された人々も大勢いるのです。
ミッションが完了すれば、私たちはその場を離れます。しかし、しばらく経つとまた元通りか、それ以上にひどい争いが起きてしまうこともあるのです。武装解除は必要ですが、それは恒久的な平和を約束するものではありません。
※タリバーン=イスラム原理主義による世直しを訴える過激派組織。1994年にアフガニスタン南部で活動を開始し、96年には政権を樹立。9・11後のアフガニスタン戦争で政権は崩壊するが、2004年ごろから再び勢力を拡大している。
※シエラレオネ=1961年にイギリスから独立するが、国内で不安定な政治状況が続き、革命統一戦線(RUF)という反政府ゲリラ(戦闘小部隊)が勢力を拡大。国と反政府ゲリラによる対立が2002年まで続いた。良質なダイヤモンドや、超硬合金チタンの原料となるルータイルの世界最大の産出国。
※月刊ジュニアエラ 2016年9月号より