2500年前の思想家・孔子の教えをまとめた「論語」は、生き方の指針となる言葉の宝庫だ。その言葉は、迷える状況におかれた現代社会でも注目され、多くの悩みを抱える子育て中の親の心のよりどころにもなるだろう。親の悩みに対する処方箋として、中国文献学者で、大学生の息子をもつ山口謠司先生が、論語の格言を選んで答える新コーナー。今回は、「子どもの習い事」について聞いてみた。
* * *
【相談者:10歳の娘をもつ40代女性】
小学4年生の娘がいます。将来のために娘に特別な能力を身につけさせたくて、幼少期からリトミック、バレエ、ピアノ、そろばん、書道と、いろいろなお稽古や塾に行かせていますがどれも嫌がって長続きしません。無理強いしたくないものの、簡単にやめさせていいものでしょうか。
【論語パパが選んだ言葉は?】
吾(われ)、何をか執(と)らん。御を執らんか、射を執らんか。吾は御を執らん (子罕第九)
【現代訳】
私も何かで名を成そうかな。馬を乗りこなそうか、弓矢をマスターしようか。一番簡単な馬の乗り方をマスターしよう。
【解説】
「論語」は、「仁(=思いやり)」を理想の道徳とし、人が苦しんでいるときの導き方や、苦境に立たされたときの責任の取り方など、現代の子育てにも役立つ言葉がたくさんちりばめられています。このコーナーでは、親御さんの悩みに対し、論語の言葉を選んでお届けします。
さて、相談者さんは娘さんに特別な能力を身につけさせたいのですね。藤井聡太くんのような将棋の天才が現れると、「この子にも特別な才能があるのではないか」と、期待してしまいます。ただ、そんな期待はしないほうが賢明です。99.9%、みんな五十歩百歩でしょう。
「論語」の中には、こんな言葉があります。
「大なるかな、孔子。博(ひろ)く学びて名を成す所なし」
これは、ある小さな村の人が、「孔子という人は、広くいろんなことを学んで万事に通じているのに、他の人より秀でているという一芸(専門の名声)をお持ちにならないのだなあ」と言った言葉です。
すでに2500年前に、一芸に秀でることは、素晴らしいことだと思われていたのです。
しかし、これに対する孔子の言葉は、「吾、何をか執らん。御を執らんか、射を執らんか。吾は御を執らん」というものでした。
次のページへ