「私も何かで名を成そうかな。馬を乗りこなすことをマスターしようか、弓矢をマスターしようか。そうだ、一番簡単な馬の乗り方をマスターしよう」と、孔子は答えたのです。
「御」とは、今で言えば、車の運転のこと。
特別な能力とは言えませんが、事故を起こさず、交通法規を犯さずに車の運転をすることでさえ、難しいことです。車の運転は、「他者への配慮」が必要だからです。
じつは、お稽古事で学ぶということは、特別な能力を伸ばすだけでなく、「他者との関係を学ぶこと」でもあるのです。
先生や他の生徒さんとの関係、決められた場所での振る舞い方など、「他者との関係」なくしては、すべてがうまくいきません。そういう意味では、お稽古事とは「社会との関わり方」を学ぶ方法でもあるのです。
孔子は、村人から「専門家としての名声がない」と言われましたが、人よりたくさんのことを知っていました。
そして何より、「他者との関係の中で、自分がどのように振る舞い、どのように社会と調和していくか」を最も大切なことだと考えたのでした。
ここからは息子をもつ父としてお答えします。相談者さんのように、いろんなお稽古事に通わせることができる余裕があるなら、バイオリン、囲碁、テニス、茶道、能などあらゆることに挑戦させてみてはいかがでしょうか。
その中で、才能が開花するものが見つかれば、これ以上の喜びはないでしょう。必ずしも長く続ければいいというものではありません。短い期間でも「一度やったことがある」という経験は、将来、娘さんが再び挑戦しようと思ったとき、大きな自信になります。娘さんが嫌がるのなら、それは時期が早かったり、遅かったりするのかもしれません。娘さんの様子を観察し、親子の対話の中から、ピッタリくるものを探して、その才能を伸ばしてあげるようにする、またはいい先生を見つけて熱中させるような環境を整えるといいのかもしれませんね。
【まとめ】
習い事は、子どもの才能を開花させることより、他者との関係を学ばせるつもりで取り組んで
山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ 0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。