新NHK大河ドラマ「青天を衝け」の主役である実業家・渋沢栄一が信奉していたことで、いまふたたび「論語」が注目されている。論語は、2500年前の思想家・孔子の教えをまとめた書物で、生き方の指針となる言葉の宝庫だ。「仁(=思いやり)」を理想の道徳とし、企業経営だけでなく、迷える現代の子育てにも役立つ言葉がたくさんちりばめられている。現代の親の悩みに対する処方箋として、「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、孔子の格言を選んで答える本連載。今回は、「人前で話すのが苦手な9歳の娘」を心配する父親へアドバイスを送る。
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【相談者:9歳の娘を持つ40代の父親】
小学4年生の娘を持つ父親です。9歳になる娘は、自分の意見や考えを発言することに自信がありません。授業中に手を挙げられないことを悩んでいる様子で、とてももどかしいです。授業や教科書の中身そのものはきちんと理解できているようなのですが、人前で話すのがとにかく嫌いで、少人数での自己紹介でさえ縮こまってしまいます。感想文など文章で表現することにも苦手意識があるようです。生きていくために必要な力だと思うのですが、父親として娘にしてやれることはありませんか?
【論語パパが選んだ言葉は?】
・或(あ)るひと曰わく、雍(よう)は、仁にして佞(ねい)ならず。子曰わく、焉(な)んぞ佞を用いん。人を禦(ふせ)ぐに口給(こうきゅう)を以てし、るる(しばしば)人に憎まる(公冶長第五)
・子曰わく、巧言令色(こうげんれいしょく)、鮮(すくな)し仁(学而第一)
【現代語訳】
・ある人が孔子に対し、お弟子の雍さんは、立派な人柄ながら弁才がない、と言ったところ、孔子はこう答えた。弁才が何の役に立つか。口先の機転で、便宜的・一時的に人をごまかし、そのために人から憎まれるだけだ。
・その場だけの巧みな言葉を用い、表情を取り繕って発言をする人には、真実の愛情が少ない。
【解説】
お答えします。孔子の弟子に雍という人がいました。雍は、友人から言わせると「仁にして佞ならず」という人でした。これは、「とってもいい人なんだけど、弁才がない」という意味です。今から2500年前にも「人前で話すことが苦手、うまく話せない」と言われて悩んでいた人がいたのです。
孔子はこれを聞いて、「焉んぞ佞を用いん」と強く言います。「いったい、弁才が何の役に立つか。人前で話すのが下手だということなど、全然、気にすることなどない」ということです。
なぜかと、孔子は付け加えます。
「人を禦ぐに口給を以てし、るる人に憎まる」
孔子は「人と接するとき、便宜的・一時的にごまかす弁舌の才能などを持っていると、かえって人に憎まれることになるから」と言うのです。
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