そのときは深く考えずにいた加藤さんだが、時が経つにつれ、その気づきは、「翼竜とされた化石はもしかすると白亜紀後期のスッポン類かもしれない」という疑問に変わっていった。そこで、化石の真ん中あたりにある欠けたところから、内部を顕微鏡で観察してみた。すると、「翼竜だったら空洞があるはずの骨の内部は、空洞ではなく、スポンジ状の組織が詰まっているように見えました。これは水中にすむカメの骨などに見られる特徴です」。
●CTスキャンで内側を見てみたら…
疑問は深まったが、もっと確かな証拠が必要だ。そこで、加藤さんは最新の化石研究の手法である「CTスキャン」を使った調査をすることにした。幸いなことに、東京大学の先輩に、その研究を得意にしている中島保寿さん(現・東京都市大学准教授)がいた。調べてもらったところ、骨の内部は空洞ではなく、スポンジ状の組織で満たされていた。これはスッポン類などに見られる特徴だ。
さらに、カメの化石を研究する薗田哲平さん(福井県立恐竜博物館研究員)にも化石を見てもらったところ、スッポン類の上腕骨の両端部分が割れた状態と、化石の形状がよく一致するとの回答だった。
「特に、現在の東南アジアにいるインドシナオオスッポンの上腕骨(前脚の骨)によく似ているとわかりました」(加藤さん)
念のため、海にすむほかの爬虫類の骨とも比べてみた。ウミガメにも、モササウルスや首長竜にも、一致する骨はなかった。
これらのことから、化石は翼竜の肩甲骨ではなく、同じ時代の甲長が約70~80センチメートルにもなる巨大スッポンの上腕骨だと加藤さんたちは確信し、その結果を論文にまとめて昨年9月に発表した。この論文は広く認められ、ひたちなか市の市報にも、「『ヒタチナカリュウ』は巨大スッポンであったことが判明!」という記事が載った。化石は加藤さんたちによって、新たに「ヒタチナカオオスッポン」と名付けられた。
翼竜は白亜紀末に絶滅してしまった動物だ。一方、カメのなかまは約2億1千万年前から現在まであまり姿を変えずに生き続けている。加藤さんによると、「調査を続ければ、翼竜の化石も見つかると思います」とのこと。7200万年前の茨城県あたりでは、巨大なスッポンが川や湖の底に潜み、海では巨大爬虫類のモササウルスが泳ぎ、空には翼竜が飛び回っていたかもしれない。想像力をふくらませて、7200万年前の様子を思い描いてみよう!
(サイエンスライター・上浪春海)
※月刊ジュニアエラ 2021年5月号より