孔子は、「異端を攻(おさ)むるは、斯(こ)れ害あるのみ」(為政第二)と言ってます。
「自分にとって正しい、大切なことを学ぶべきであって、その本筋からかけ離れた異端のものを学ぶことは、百害あって一利なし」という意味です。
この孔子の言葉を忘れないようにして、ぜひ勉強を続けてほしいのです。相談者さんの妻は熱心すぎるかもしれませんが、「知識」は人生を生き抜くための武器です。勉強をして損になることは決してありません。娘さんは「塾自体が逃げ場になっている」ということですが、塾など勉強に適した場所での学習は、集中力をそぐものにあふれた家での勉強より効果があるかもしれません。
相談者さんの子ども時代のように「山や川でのびのび遊ぶ」というのもひとつの学びの方法です。地方で育った相談者さんは、きっと自然を体得する力が養われているのでしょう。
『論語』で、孔子は「吾(わ)れ少(わか)くして賤(いや)し。故に鄙事(ひじ)に多能なり」と自分のことを言っています。孔子は、野山を駆けめぐって遊ぶ、官位も、地位もない田舎の家に生まれた人でした。しかし、「だからこそ様々なことを自分でやらなければならず、そのおかげで、いろんなことができるようになった」と言いました。
人の育つ「環境」は異なって当然です。大切な娘さんの個性をいかに生かし、伸ばすかは、親がつくる「環境」によって大きく左右されますから、教育に対する両親の意見の食い違いは、禁物です。地方と都会の二者択一の視点でなく、まずは家族にとっての幸せとはなにか、娘さんにどう成長してほしいのか、将来までを俯瞰して、根本のところを話し合ってください。
【まとめ】
地方にも都会にも教育上のメリットはある。家族にとって、娘さんにとって、なにが大切かを夫婦で話し合おう
山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ 0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。