<神奈川県の有名男子進学校で教鞭を執る友人と食事をしていたとき、彼からこんな問いかけがありました。

「ウチの学校は偏差値70を超えるだけあって、入学当初の生徒たちは本当に優秀だよ。あの入試問題で合格点を上回ったのだから。でもね、毎年のことだけれど、中学校1年生の夏休み明けには、学力が『伸びる子』と『落ちる子』に二極分化する。どうしてそうなるのか? 両者の違いって分かる? ヒントは小学生のときの学習姿勢……いや、学習環境といってよいかもしれない」

(中略)

 彼が言いたいのはこういうことです。

 保護者が子のスケジュール管理のみならず、教材の整理整頓、取り組んだ課題の丸つけや、ときには子に寄り添って解説してやる……。そんなふうに中学受験を「二人三脚」で乗り切ったようなご家庭の子は、中学入学後に学力が低迷するというのです。

 一方、親がわが子の中学受験勉強から適度な距離を保ち、子どもが自ら学習にコツコツ励んでいる……そういうご家庭の子は中学入学以降にさらに学力を高めていくらしいのです。>

■教育の目的は「自立」にある

 使い古された言い回しではあるが、「親」の役割とはその漢字の字形から「木の上に立ってわが子を見守る」ことと言われている。また、漢文学者の白川静氏が編纂した『字通』によると、「親」とは「新しい位牌を拝する」形であるという。自分の父母が亡くなった際に、そのありがたみを身に染みて感じられる瞬間を切り取って、この漢字が生まれたのかもしれない。

 上記2点の事柄が示唆しているものは何だろうか。

 わが子より長生きしたいと願う親はまずいないだろう。子より先に親がこの世から立ち去るのが常である。

 親はなぜわが子を「教育」しようとするのだろうか。わたしはこう考える。いまわの際で「わが子は立派になったし、もう自分がそばにいなくても大丈夫だろう」と思えるようにするためではないか、と。こう考えると、「親」という漢字に含まれた二つの意味がすっと入ってくる。

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