高濱 社会問題のまっただ中にいたからこそ、切り込む視点を持てたんだね。
安部 うわ、話していたら関わってくれた大人の話、いろいろ思い出してきた。小学校最初の担任にも影響を受けましたね。子どもたちに時間割を決めさせてくれたりして、自主性をくすぐってくれる先生でした。体育ばかりの日も作れるんだけど、そのかわり国語と算数ばっかりの曜日もできた。でも自分たちで決めたから文句は言えない。
高濱 いいねえ。学校はともすれば与えられてやらされるところになっちゃうけど、自分で決められたんだ。小学校でのその経験は大きいな。
安部 「道徳的に正しいことやきれいごとこそ一度は疑え」とよく言ってました。僕の価値観の土台ってこの先生に作られたのかも。リディラバの根幹にも通じている……きれいごとを疑うという意味では実はね、ひと口に社会問題といっても、人気不人気があるんですよ。
高濱 え、どういうこと?
安部 たとえば子どもの貧困にはみんな興味を持ってくれるんだけど、障害者の性にはとまどう人が多かったり。でも僕は、むしろそちらの人気のないほうに、より燃える。今取り組んでいる社会問題を解決するための仕組みが今そこまで注目されなくても、後々の世では当たり前になっていればいいなと。その小学校の先生は、卒業後もたまに連絡をくれます。20代もいい出会いがあったし、結局僕は人との出会いの面で恵まれていた。
高濱 ちゃんと見てくれている人っているんだよ。それに気がつくことも大切。ところで今は、ご両親とは?
安部 ふふふ。僕、今、かつて僕がいた野球チームの監督をしています。解散すると聞いて、勢いで僕がやるって引き受けちゃった。あの頃の僕の唯一の居場所だったから絶対なくしたくなかったし。その総務係が、実は母なんですよ。
高濱 ええっ! 野球で衝突した2人が野球で結びついてるの? でも良かった。
安部 今思うと、あの頃にふと母の部屋に入ったら、不登校や家庭内暴力とかそういうたぐいの本が山と積んであったのを見たことがありました。あれはちょっとびっくりした。
高濱 そうでしょ。上手に愛情表現ができなかったのかもしれないけど、ちゃんと愛されていたんだよ。
安部 今は週1で一緒に酒を飲んだりしてます。勢いでケンカもしますよ。
高濱 いい、いい。ケンカならいい(笑)。
(ライター・篠原麻子)
朝日新聞出版