孔子は、「忠信」「篤敬」の気持ちで接していくなら、異民族の国でも他者と信頼関係を作って生きていくことができる。反対にそうした気持ちで対応しなければ、住みやすいはずの生まれ故郷ですらうまくやっていくことはできなくなってしまう、と説いているのです。常に誠実で優しく、また敬虔、謙譲であることを、娘さんはもちろん、みんながそういう気持ちになれるよう、日々の生活を過ごすことを子どもに教えるのが、父親である相談者さんの務めだと思います。
他国への侵略は、他人の家に勝手に入っていくことと同じです。プーチン大統領は、他人の家に入って、自分の言うことを聞かない人を殺しているのです。決して許されることではありません。4歳の子どもにもわかることですが、では、なぜ侵略を止められないのでしょうか。
悪いことをしている人をつかまえるには、自分たちでそれに対処する力も必要ですし、それができないのであれば、外の人たちに助けてもらうしかありません。自宅にセキュリティーサービスを付けたり、警察への通報をするのと同じことですね。
でも、セキュリティーサービスに加入していなければどうすることもできません。さらに、家の中の人たちが機転を利かせることや、外部に助けを求めるための言語能力や信頼関係がないとしたら、助けを求めることもできなくなってしまいますね。
娘さんの質問をきっかけに、ぜひ家族全員でこうした力をつけていこうと話し合ってみてください。そして、2500年前の戦乱の中国で非戦と平和主義をとなえた、孔子の次の嘆きの言葉の意味も、家族で話し合ってほしいと思います。
「子曰わく、已(や)んぬるかな。吾(わ)れ未(い)まだ能(よ)く其(そ)の過ちを見て、而(しか)も内に自(み)ずから訟(せ)むる者を見ざるなり」(公冶長第五)
「訟」とは自責の意。「ああ、なんとも仕方がないことだ。自分で過失を自覚して反省する、自責の念の強い人をまだ見たことがない」という意味です。立派な人間は、自分の過ちを認めて反省できる人であって、そういう人がいない世の中がよくなるはずがないと嘆いたのです。
【まとめ】
適当なつくり話は×。どんなときでも誠実で、敬虔であること、自分の過ちを認める大切さについて家族で話し合う機会にしよう
山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ 0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。2021年12月に監修を務めた『チコちゃんと学ぶ チコっと論語』(河出書房新社)が発売。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。