胎児から高齢者まで1万人以上の脳を分析・研究した経験を持つ脳内科医の加藤俊徳先生は、自ら「音読がうまくできない」という困難を抱えていました。小さいころから学校で教科書を読むよう指されるたびに「地獄にいるような気持ちになっていた」という加藤先生。なぜ黙読はできるのに音読がうまくいかないのか、自分の脳を研究し続け、脳のメカニズムをもとに、どうすれば音読がうまくいくかを見つけ出しました。加藤先生が「音読困難症状」を克服するまでの道のりについて聞きました。

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 読もうと思っても読み上げる文字が頭に入らず、文の内容も理解できない……。加藤先生の小・中・高時代は、「なぜだろう」という苦悩の連続だったといいます。

「本を読むのはすごく好きだったのに、音読となるとうまくいかない。これは学生時代の悩みでもあり不思議の連続でした。国語の成績は小学校低学年のときは5段階評価で2。どういうわけか漢字が増えると読みやすくなり、学年が上がると少しは音読が上達しましたが、それでもまだうまくはできませんでした」

「本をたくさん読めば音読ができるようになるのでは」と本屋街の近くに住んだり、なぜか英語のほうが音読しやすいと気がついたり。それでも根本的な理由が分からないまま学生生活を過ごしていたそう。その後、脳の研究を本格的にするようになってだいぶ経ったころ、原因となる自身の脳の特徴を突き止める出来事がありました。

「文を読むとき、多くの人は頭の中で声に出すのと同じように『音』が鳴っているのですが、自分は『言葉』の音が鳴らない――これが分かったのは、40歳ごろに自分自身で作った『言葉を暗記する課題』をやってみたときのことです。例えば『いぬ、うさぎ、ねこ、くま、うま』を文字で見て記憶するのと、耳から聞いて記憶するのとでどちらがより覚えられるかを比較したとき、私の場合、記憶できる量が全然違うのです。耳からの情報では記憶できない。自分は『声を聞きながら記憶する仕組みができていない』とはっきり分かった瞬間でした」

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久次律子
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