現実のスポーツ現場では、結果を出せる一部の子どもに評価が集中し、そうでない子が“見えづらくなる”構造ができてしまいがちです。特に小学生のうちは、体格や成長スピードの差が大きく、成長の早い子が練習でも試合でも機会を得て、そうでない子は機会が失われる……ということが起こりやすいのが現状です。
そういった状態が続くと、子どもたちの間に“見えない壁”ができてしまうことがあります。出場している子は「失敗してはいけない」というプレッシャーになり、出られない子は「どうせ自分なんて……」と感じてしまうといった、誰にとっても安心できない環境になってしまいます。気づかないうちに、自分の存在価値を「出場できたかどうか」でしか測れなくなってしまうのです。
だからこそ“今すぐに結果を出せそうな子”だけでなく、“全てのこれから育つ子”に、対等に尊重する視点を持てるような仕組みづくりが求められます。それは指導者や制度側の視点の変化であり、社会全体で支えるべき課題です。
すべての子に出場機会を保障することが国際的な潮流
最近、こんなニュースが話題になりました。2024年の全日本U12サッカー選手権で、登録選手のうち約2割が一度も試合に出場できなかったのです。日本サッカー協会も「子どもにはプレーする権利がある」と危機感を示しました(朝日新聞デジタル2025年5月21日)。一方、欧州では、子どもの成長を長期的に見据え、すべての子に出場機会を保障することが育成の常識となっており、日本のこうした現状は国際的な潮流とは逆行しています。
この背景には、行きすぎた勝利至上主義で勝利を優先する指導、成果がクラブの評価や利益に直結するという構造的な課題もあります。勝利を優先するあまり、子ども一人ひとりに我慢や犠牲を当然のように求める風潮もあり、その結果、プレー機会が偏っています。「勝てる子」だけでなく、「これから育つ子」すべてにチャンスが届く環境づくりが求められます。
スポーツにおける「本当の成長」「心の育ち」は、試合に勝った・負けたという結果そのものではなく、その過程で何を感じ、どう乗り越えようとしたかという体験の中にこそ育まれるのではないでしょうか。
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