八ヶ岳は大変でした。「雪山」と聞いていたので「雪遊びができるかも!」と楽しみにしていたのですが、実際はマイナス20度の吹雪。歩きながら手が痛くて痛くて……父に『痛いのは感覚がある証拠だから大丈夫。痛くなくなったら教えてね』と言われて、『神さま、助けてください』と祈りながら歩きました(笑)」

 でも、父と二人でいっしょにがんばって登ったこと、「父親がどういう人なのか」ということを知ったこと。そして、やっと着いた山小屋で山菜ラーメンを食べながら、あたたかさとおいしさを共有したこと……すべての経験がはじめてでした。ですから、八ヶ岳は特別で、私の記憶に深く残っているんです。

 結局、この日は下山しました。ラーメンを食べて元気が復活した私は拍子抜けしたのですが、父は「絵子さん。山では“していい無理”と“してはいけない無理”があります。僕たちがこれから山頂に行くのは、してはいけない無理です。絵子さんの命に危険が及ぶことがあるかもしれません。山は『帰ること』が目標だから、今日は帰るというゴールをいっしょに達成しましょう」と言ったのです。

 翌日テレビを見て、前日に同じ場所で遭難者が出たことを知りました。父の「していい無理、してはいけない無理」ということばの意味を身をもって学び、このときに「お父さんからもっといろいろなことを教えてほしい」と思うようになりました。

非日常で刺激的な「山」の世界を、父が教えてくれました

――お父さまは、絵子さんに敬語をつかうのですか?

 普段は普通のことばづかいです。でも、仕事や私になにかアドバイスや指摘をするときは敬語なんです。とても明るい父ですが、ああ見えて、実は自分の気持ちをなかなか正直に言えないタイプ。先日も「もっとこうしたほうがいよ」といった内容の長文メッセージが届いたのですが、すべて敬語でした(笑)。

――中学はイギリス、高校はニュージーランドと海外の学校に通っていた絵子さん。お父さまとはどのようにコミュニケーションをとっていましたか。

 学校が長期休みに入り、日本に帰国するたびにいっしょに登山に出かけていました。

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