ですので、学校のプールが使えない、近隣の施設を借りての実施が難しい、といったさまざまな理由でできない場合、「実施しない」という判断もできるようです。
ただし、この「なお書き」が書かれた背景は現代とは違っています。かつてプールが全国の学校に設置されていなかった時代、環境が整わない自治体に配慮した文言だったようです。しかし今は、この文言を逆手にとっています。老朽化や財政難などの理由で、「適切な水泳場の確保が困難だからやらない」と解釈している自治体がある、という現状です。
水泳は水の危険性を学ぶ貴重な機会
――水泳の実技授業ではどんな力を育むのでしょうか。
もちろん先生は知識・技能といった泳法を身に付けることができるよう指導しますが、日本は川や海といった水場が身近にある国です。水とどう関わるのかを考える機会にもなります。水のあるところは事故が起きやすい場面です。着衣泳の授業で空のペットボトルを抱えて長く浮くなど、リアルに体験することも重要です。学習指導要領では、水難事故や事故防止・救助など健康・安全に関する教育は、座学でも構わないので必ず実施することになっています。もし水泳実技がゼロという学校があれば、それは学ぶ機会を奪うことになるので、私は問題だと思っています。
私の専門の運動発達の視点で考えると、「体を動かす多様な経験」という意味でも、水泳は重要です。様々な形で水に触れ、楽しさや陸上の運動とは違った危険性などを学ぶ貴重な機会だと思っています。
骨の成長が著しい時期に、足腰への過度な負担を抑えながら、心肺機能の向上が見込めるという点が水泳ならではの特徴でもあります。
1回だけでは技能は身に付かない
――近年は猛暑でプールに入れない、という日も増えてきました。親世代が子どもの頃と比べ学校のプール授業が少なすぎるように感じます。
水泳授業の回数については、何回やらなければならないという決まりは一切ありません。ですので、極端なことを言うと、暑すぎ寒すぎが続き「1回だけしかできなかった」ということでも学習指導要領上、許容されます。ですが、たった1回で技能が身に付くかというと、それは無理ですよね。当たり前ですが、技能習得という意味では、どの単元も8~10回くらいの授業時間を確保するのが通常なので、年1回しか出来ないというのは問題ありだと個人的には思います。
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