育児中の父親の心身の不調を専門とする「周産期の父親の外来」。2024年4月、全国で初めて信州大学医学部附属病院に設置され1年が経ちました。この外来を開設した同病院の村上寛医師に現場の声を伺いました。※後編<会社からは「育休をとって」、妻からは「休まなくていい」と言われ…“父親の産後うつ”の背景とは?【医師に聞く】>に続く

MENU 「周産期の父親の外来」を立ち上げた経緯とは? 外来は体調不良のパパが受診しやすいネーミングに

「周産期の父親の外来」を立ち上げた経緯とは?

――育児中の父親を対象とした「周産期の父親の外来」の設置から1年が経ちました。全国初の外来を設けるに至った経緯を教えてください。

 父親の外来を始める前に、私たちは妊産婦を対象とした外来を始めていたんです。産後うつは社会的な課題です。病院の中でも精神科だけでなく、産婦人科や小児科、遺伝子診療科など、さまざまな科が関わる領域です。加えて病院外でも助産師や保健師なども関わる。だからこそ縦割りをなくしていろんな科でまとまってサポートする体制が必要になり、2021年5月に妊産婦のメンタルヘルスに特化した「周産期のこころの外来」を始めました。

 父親の外来を立ち上げた経緯は、現場の声がきっかけでした。産後うつやメンタルヘルスの不調、あるいは元々精神疾患を抱えた妊産婦の方々を診療させていただく中で、

「私も先生に診てもらっているけれど、旦那の様子がおかしい」

「夫も心配だけれどどうすればいいか分からない」

という声を何度か聞くようになりました。さらに新生児訪問を担う地域の保健師や助産師からも、

「赤ちゃんとお母さんのために訪問したけれど、隣にいるお父さんの様子がおかしかった。でもどう対応したらよいのか分からない」

という声が寄せられました。

 こうして周産期の父親支援の重要性が浮かび上がり、可及的に解決するために「周産期の父親の外来」を立ち上げました。

外来は体調不良のパパが受診しやすいネーミングに

――「周産期の父親」とあえて明示することで、「お父さんたちも受診できる場所」と周知できますね。
 その通りです。どうしても受診をためらう人もいます。これは妊産婦さんにも言えることです。例えば、妊娠出産を楽しみにしていた妊婦さんが産後うつになったとします。そうすると保健師や助産師、家族から「精神科に行ったほうがいいよ」とアドバイスされるわけです。でもそうなったとき、人によっては「なんでこんなに頑張っている私が精神科になんか行かなきゃいけないの」という葛藤が生じます。あるいは精神科にかかったことがある人が、自分自身にレッテルを貼ってしまう「セルフスティグマ」があるケースもあります。日本はメンタルヘルスケアの文化が育っていない国ですからまだまだ偏見があるんです。

次のページへ“父親の産後うつ”の背景は?
著者 開く閉じる
大楽眞衣子
大楽眞衣子

ライター。全国紙記者を経てフリーランスに。地方で男子3人を育てながら培った保護者目線で、子育て、教育、女性の生き方をテーマに『AERA』など複数の媒体で執筆。共著に『知っておきたい超スマート社会を生き抜くための教育トレンド 親と子のギャップをうめる』(笠間書院、宮本さおり編著)がある。静岡県在住。

1 2