中学受験を描いた小説『問題。』(朝日新聞出版)を上梓し、2年前に、娘の中学受験を経験した作家の早見和真さん。受験を通して見つけた真の教育観とは? 算数教育家で中学受験カウンセラーの安浪京子さんと対談しました。子育て教育情報誌「AERA with Kids2025年春号」から紹介します。

MENU 「父と娘」に焦点を当てた理由とは なぜ、子どもに中学受験を経験させたのか 「描きたかったのは“中学受験”そのものではなく、家族の物語」と腑に落ちた 志望校に落ちたことで、より豊かな人生を選び、歩めることもある 過去の意味は未来の頑張りによって変えられる

「父と娘」に焦点を当てた理由とは

安浪京子(以下、安浪) 『問題。』を興味深く拝読しました。これまで中学受験を描いた小説は、「母と娘」の関係をテーマにしたものがほとんどでしたが、「父と娘」に焦点を当てた理由は?

早見和真(以下、早見) まさに「父と息子」、「母と娘」の物語は山ほど世の中にあふれているのに、「父と娘」の物語が本当に少ないからです。娘が生まれた瞬間から「いつか父と娘の物語を取りに行く」と決めていました。

安浪 そうだったんですね! でもなぜ舞台を「中学受験」にしたのですか?

早見 父と娘の関係性って、どこか薄皮一枚挟まっている状態なんですよね。少なくともわが家はそうで、妻と娘が対等に大げんかするようには、僕は娘に接することができなかったんです。それが“中学受験”という共通の敵が現れて初めて、娘とむき出しで向き合えた気がした。「やっと書きたいものに出合えた」と思いました。

安浪 なるほど。「父と娘の物語」のコンテンツとして、“中学受験”が選ばれたわけですね。

早見和真さん 撮影/佐藤創紀(写真映像部)

なぜ、子どもに中学受験を経験させたのか

早見 安浪先生は、“娘”として生きてこられた中で、お父さんとの間に小説になりうるテーマって何か、ありましたか?

安浪 私は思春期のころは、父のことがあまり好きじゃなかったので、小説の主人公とお父さんのような関係性とは異なりましたね。でも、最近は、仲良し父娘が増えていると感じますし、中学受験に積極的に関わるお父さんも、ずいぶん増えました。

早見 そうなのですね。小説家として見ると、互いに反発する昭和的な父娘の関係の方が、良い物語が生まれやすいんですけどね。

安浪 そもそもなぜ、早見さんのお嬢さんは中学受験を?

早見 僕は、娘が生後半年で作家になり、東京から伊豆、愛媛へと暮らす場所を変えてきました。あちこち引っ越しをして翻弄してしまった代わりに、娘には、「中学校は世界中の学校から自分で選んでいいよ」と伝えていたんです。

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玉居子泰子
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