子どもを産み育てるのは、人生の「フェーズ」を変えること。次のフェーズは行ってみないとわからない、という怖さは確かにあります。僕自身、3人の娘がいるので、フェーズを変えたことで明らかに大変になった、という実感はあります。そして、子どもが病気で死にそうになったり、手術を繰り返したりするなかで人の命に対する洞察も深まりました。また、自分の一生のなかで体験できる感情や「命」への思いは確実に深まりました。それは経済的な「利得」とは完全に別次元の「人生の宝」なんですよね。昔のぼくにはまったく知りようもなかった世界だと言えます。
フェーズが変わるって、面白いことです。劇的なフェーズの転換は子どもを持つことだけではなくて、家族以外のことでいくらでもあります。一つ言えるのは、何ごとにも恐れることなく、「たとえ失敗してもなんとかなる」という経験を重ねていけば、フェーズを変えること自体を面白がれるのではないかということ。それこそが人生の醍醐味(だいごみ)なのではないかと思っています。
(取材・文/古谷ゆう子)
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東海学園大学特命副学長。東京工業大学(現:東京科学大学)特命教授。文化人類学者。医学博士。1958年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。東工大内では、学生による授業評価が全学1200人の教員中1位となり、2004年に「東工大教育賞・最優秀賞」(ベスト・ティーチャー・アワード)を学長から授与された。東工大教授、リベラルアーツ研究教育院長、副学長を務めた。『生きる意味』(岩波新書)、『かけがえのない人間』(講談社現代新書)、『愛する意味』(光文社新書)など著書多数。