先生はコーヒーよりお茶が好きと聞いて、「お茶もコーヒーと同じ、苦味があるのが特徴。苦味っておいしいですよね」と言ったふうに、カイくんも少しずつ相手と共通の話題を探していったといいます。相手の心に興味を持って対話をする楽しさを発見していったカイくんは、次第に、本来の明るさやおしゃべり力を発揮できるようになっていきました。
カイくんと中澤先生の、初回の授業のきっかけは「コーヒー」。でもここで終わらせず、中澤先生は、カイくんが今後、周囲の人たちとの対話を通して、なりたい自分になれるよう勉強をしていこうと促します。
「うん、俺、先生の授業に通うわ」とカイくんは、初めて、自分の意思で学校に通うことを決意しました。
一歩を踏み出す挑戦が友だちを運んできてくれた
そうして、開催が決まった「鑓水中カフェ」。カイくんは、自分と同じように支援教室に通う男女ふたりの生徒に、「受付を手伝ってくれないかな?」と相談。
それまではほとんど話をしなかった間柄でしたが、カイくんの”スカウト”を、ふたりは快く引き受けてくれ、「コーヒーを飲む時間もないよ!」と言いながら、忙しく手を動かし続けていました。
そんな二人にカイくんは「後で賄いコーヒーを出すから、あとちょっと頑張って!」と冗談をこぼすほどにリラックスしています。
「”友だち”が手伝ってくれたおかげで、今日は大盛況になりました」というカイくんの言葉に、ご両親は、「すごくうれしい。今までずっと学校では一人でいたのに、こんなに楽しそうに友だちと話をしている息子を見られたことが、信じられないくらいです」と感無量の表情でした。
これまで、「同級生は怖いもの」と距離をとっていたカイくん。「今でも、通常学級に戻りたいとは思っていない」と言いますが、中澤先生をはじめ、周囲の理解を経て、大好きなコーヒーを通して人と繋がり、生き生きと自分の「好き」を形にしている姿には、眩しいものがありました。

(取材・文/玉居子泰子)