そう笑顔で語るのは、鑓水中学校の特別支援教室を担当する中澤幸彦先生。保健体育科教師として14年間勤務し、生活指導主任や研究主任を経て、2年前から特別支援教育に携わっています。
特別支援教室での指導は、生徒一人ひとりが、「好き」「楽しい」と感じられることに出会い、「なりたい自分」に近づけるような授業のあり方を模索しています。
中澤先生とカイくんとの出会いは、約1年前。中学入学後、学校に全く来られていなかったカイくんでしたが、鑓水中学校の先生たちが、中澤先生との間を繋いでくれたといいます。
「私がカイくんに初めて会えたのは、中学1年が終わろうというときでした。まずは週に1回でいいので支援教室に通ってもらいたいと学校でも議論を重ねてきました。中1の冬に初めて私の体験授業にきてくれたとき、私がやったことは、とにかくカイくんの話にじっくり耳を傾けることでした。彼が持っている興味や関心、感動やこれまでの体験について聞いたのです。最初は、質問をしても、カイくんはなかなか自分からしゃべりたがりませんでした。しかし、『カイくんの好きなことってなんだろうねぇ』と、空に向かって話すように何度か問いかけていたら、『コーヒーが好き』という言葉が出てきたんです」(中澤先生)
コーヒーを通して気づいた対話の楽しさ
お父さんがいつも家でコーヒーを淹れてくれて家族で楽しく話していること、ファミレスでエスプレッソやカプチーノを試してみたこと、家族とのイタリア旅行で本場のさまざまな豆の味に感動したこと。40分間、コーヒーとの出会いからその魅力についてとうとうと語り出したカイくん。しかし、話を聞き終わった中澤先生がニコニコと言ったのは「僕は、コーヒーが飲めないんだけどね」という言葉。
カイくんはショックを受けたと言います。
「大人はコーヒーを飲むもの、と思い込んで話していました。先生がコーヒーを飲まないとも知らず、ひとりでコーヒーの魅力について喋っていた自分がショックでした」
「40分が無駄だった」と沈むカイくんに、中澤先生は「じゃあどんな会話だったらよかったんだろう?」と質問を重ねます。
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