子育てで大切なのは、「何をするか」よりも「何をしないか」だーー。こう口をそろえるのは、多くの小学生が首都圏トップ校に合格する「宮本算数教室」の宮本哲也さんと、栄光学園の元数学教師で「思考力教室いもいも」を主宰する井本陽久さんだ。教育界きってのカリスマ2人が、保護者の悩みにずばっと回答した。教育ジャーナリスト・おおたとしまささんと2人の共著書『子どもが自ら考えだす 引き算の子育て』(Gakken)の考え方をお届けする。

MENU 算数は「計算力」ではない 「学習習慣」に取り憑かれたみたいになっている 親が信用していないと子どもは不安になる

算数は「計算力」ではない

Q 低学年のうちに、算数なら計算、国語なら漢字の読み書きなど、学習習慣をつけさせたかったのですが、体を動かすことが大好きなのか、「勉強はしたくない!」と言います。

宮本 算数は計算力ではありません。思考力です。計算が好きな子どもは算数が好きにはなりません。世の中に存在する算数の問題の90%は易しくてつまらないジャンク問題です。こういうものをたくさん子どもにやらせようとすると、子どもはそのうち嫌いになる。易しくて面白いものをやってると、「お、面白い! もう一枚!」。気がついたらめちゃめちゃ難しい問題に何時間でも取り組むようになる。

 算数という教科は子どもと非常に相性がいいんです。0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、+、−、×、÷。これがすべての登場人物。すべての問題がこれらの組み合わせでできています。算数の学力の半分は国語力、読解力なんです。書かれてることをちゃんと理解して、これとこれを組み合わせて、はい、できた。

井本 算数の基礎は計算、国語の基礎は漢字とか、なんでそう思うんだろう? この子は体を動かして楽しいって思ってるんだから、体を動かしながら数理的ないろんな試行錯誤をしているかもしれないし、数理にはまったく興味がなくてアート的な感性を育んでいるかもしれないし。それがまさに個性です。「これに興味をもたせて、取り組ませて、こんなことをできるようにしたい」なんてそもそもできない。

 いちばん基本的なことをやらせたら数学ができるようになるみたいなスモールステップの発想は間違いです。スモールステップって上級者向けなんですよ。たとえば野球選手が、すでに速い球を投げられるんだけど、いろいろ分析して、あとちょっとココとココを意識的に変えればさらに良くなるみたいなときには有効だと思うけど、子どもにそれは無理ですよ。

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おおたとしまさ
教育ジャーナリスト おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。リクルートでの雑誌編集を経て独立。数々の育児誌・教育誌の企画・編集に携わる。現在は、幼児教育から中学受験、思春期教育、ジェンダー教育、教育虐待、不登校、教育格差問題まで多岐にわたるテーマで現場取材および執筆活動を行っている。書籍のみならず、新聞から女性誌、各種ウェブメディアまでさまざまなメディアを舞台に、取材成果を発表し、テレビ・ラジオなどへの出演や講演も多数。中高教員免許をもち、小学校教員や心理カウンセラーとしての経験もある。著書は『いま、ここで輝く。』(エッセンシャル出版)、『学校に染まるな!』(ちくまプリマー新書)など80冊以上。

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