最近、保育や教育の現場で注目を集める「愛着」ということば。ここでの「愛着」とは、子どもの成長に影響を与えるとても深刻な問題をさします。その意味を、医学博士・臨床心理士・学校心理士スーパーバイザーの芳川玲子先生に聞きました。
【マンガ】毒親に育てられたことを赤裸々に描くマンガはこちら(全31枚)愛着は、生きる気力につながる
――なぜ最近「愛着」ということばが注目されているのでしょうか。
たとえば学校での問題行動。これらの原因に、「愛着」が大きく影響しているケースもあるのでは……といった観点から、近年研究が広がってきています。「アタッチメント」という場合もあります。
――「愛着」とは、なにかを好きで心ひかれる……といった意味だと思っていました。
心理学や精神医学での「愛着」は、少々意味が異なります。
ある危機状況に面して恐怖や不安を感じたときに、安心できる誰かにしがみついたり寄り添ったりできること。そして、特定の人に触れることで「安心感」や「安全感」を得られることを、発達心理学では「愛着」というのです。
たとえば、子どもがなにかを「怖い」と思ったとき、お母さんのそばに行ったり、お母さんの服のすそをちょっとつまんだり……。こんなふうに、不安定なときに接近を求めることが「愛着」です。だれかに寄り添って安心を保とうとする本能、感覚のことですね。
愛着は、通常は親子関係の間に形成されていきます。親にタッチして、受け入れてもらい、「安全基地」になってもらうことで「お母さんやお父さんは自分を守ってくれる相手」と認識できて、「自分は守られている」「愛されている」と感じられる。これが「自分は生きていていいんだ」という思いにつながっていくのです。
――愛着は、どのくらいの期間で形成されるのですか?
生後5カ月から2歳くらいまでの間に、その基礎が形成されるといわれます。まだ赤ちゃんのうちですね。泣いたら親が来てくれる、自分の思いを受け止めてくれる。これを「愛着」という本能で行っているのです。親は、赤ちゃんが「こちらに向って手を伸ばしてくれる」「あやすと笑ってくれる」と解釈する。こうすることで、親子の間に愛着が形成されていくのです。愛着の形成は、子どもだけが近づけばいいというわけではなく、親など「受け止める人」がいることではじめて形成されていくわけです。
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