――「逃げてもいい」と言ってもらえるような風潮もあります。

 それは少し違和感があって。「逃げる」とか「不登校」という言葉って、結局登校を前提にしていますよね。つまり今も圧倒的主流は、登校することです。別に、登校する人を「不在宅」、引きこもりじゃない人を「ほっつき歩いている人」って呼んだって言いわけですよ(笑)。だからおそらく今も、主流じゃない道をいくことの困難、抱える面倒はあると思います。もしかしたら将来なりたいものになれないかもしれないとか、遠回りになるよとか。

 実際、僕の場合、芸人になることを夢見ていたわけではなく、それしかすることがなかったという感じなので、選択肢は狭まるかもしれません。社会がまだそういう状況である以上、何の考えもなしに「学校行かなくてもいいよ!」とは言いたくない気持ちもあります。いずれにせよ、娘が学校に行けなくなったら、その点は説明したい、その上で選択肢を示したい、それが大人が出来ることかなと思っています。

1999~2000年ころ、髭男爵結成当初の山田ルイ53世さん(右側)

――保護者としては子どもが学校に行けなくなると心配になるものです。

 引きこもりの問題って結局、お金の問題でもあると思うんです。娘たちにお金の話をどこまで具体的に話すかはわかりませんが、「パパはこれだけの稼ぎと貯金があるから、ここまでは引きこもらせてあげられるれど、そこから先は本当に考えなあかんとこや」って言うかもしれないですね。引きこもっても生計を立てられるような術がもっと広まれば、「逃げてもいい」って言ってもいいかもしれないですけど。社会の理解は進んではいますが、今はまだその先の環境が十分に整っているとは言いがたいと思います。

――山田さんご自身は、また引きこもりになるのではないかという恐怖はないですか?

 それはないですね。芸人として食べていくことの日々の不安のほうが切実で。貴族の乾杯漫才で一発当てて以降、正直モリモリ食べられてはいるんですけど、レギュラーが終わって「やばい!」とか、そのあとあと新しいレギュラーが始まって「助かった……」と胸をなで下ろすとか、綱渡り感は終わることがない。

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