ウォーミングアップとしての自己紹介
「授業の最初に、班の中で自己紹介などの簡単な対話ワークを毎回行います。実際にやってみるとわかると思いますが、自分のことを他人に話すというのは意外に難しい。でも繰り返すこと、そして肯定されることで、話すことが楽しくなり、心が開き、頭も活性化します。その状態のまま、課題への取り組みに移るので、生徒たちはスムーズに発信、共有でき、主体的に考えるのです」
河口先生は2017年から産業能率大学の講師も務めているが、この対話の練習は、大学でも毎回行っている。
「1~2分でかまいません。いわばウォーミングアップですね。教師はただ見守るだけですが、生徒たちは必ず自分たちから動きだします」
自己紹介は自己認識につながり、さらに自己開示へのステップにつながる。こうした対話の練習は、探究の時間だけでなく、教科授業やHRなどでも行うと、より効果が上がるという。
「要は参加意識です。その場に参加している自覚があれば、やる気も吸収力も上がります。探究学習はすべての学力の土台になりますから」
ともすれば探究授業は受験に直結しにくいと言われるが、大学の総合型選抜との親和性も高いという。
「教科授業は正解と正解までの考え方を学びますが、探究は、自分の考えたことを自分の言葉で話すスキルが身につくほか、仮説と発表を繰り返す試行錯誤によっても鍛えられます。こうした経験は、大学入試や就職活動の面接などでも必ず役に立つでしょう」
プレゼンの評価については、現場ではあまり言及しないという河口先生。正解かどうか気にするよりも、まずは授業で対話の練習を楽しめるよう、じっくり時間をかけてやっていくそうだ。
「授業は世界の窓口で、何があるかわからないからこそ楽しんでほしい。わかると楽しい、ではなく、楽しいからわかるとなったら最高です」
先生の授業は起立・礼・着席がないのも特徴だ。
「本当はチャイムもなくして、生徒の主体性にまかせたいんですけどね」
(文/篠原麻子)

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