4ヶ月の産休はあっという間に過ぎてしまいました。娘を預けてイザ、出社する初日、私は身を引き剝がされるような思いでした。これだけ自分を必要としている小さな、小さな生き物を置いていくのです。自分の血を分けた無力で、無垢な赤ん坊。その我が子を「はい、よろしくね!」と他人に預けて颯爽と出勤する気にはどうしてもなれないのです。それは今までに経験したことのない苦しみでした。

(何かが間違っている……)

 そう思いながら出勤する足取りは重く、その場で辞表を提出したくなってしまったくらいです。

パリジェンヌがみんな産後にやっていること

 ちょうど同じ時期に産休で会社を離れていた同僚がいました。マーケティング部門に勤めているアリスです。彼女が手掛けるバッグは必ず大当たりするという、いわゆる「デキる女」のアリスは私が出産した3週間後、同じ産院で男の子を産んでいました。

 私はある日、昼休みを利用して彼女の家を訪ねることにしました。出産祝いを渡すという名目もありましたが、何よりも新米の働く母親どうし、授乳や夜泣きに関する苦労や悩みを語り合いたかったのです。

 ところがどうでしょう。

「ね、あれ、やってる?」

 アリスは開口一番に聞いてきます。てっきり母乳の話かと思って、

「もちろん!」

 と即答した私ですが、全くの見当違いでした。アリスが言及しているのは、母乳のことではありません。彼女が持ち出してきたのは、パリジェンヌがみんな産後にやっていることですが、私は考えもしなかったことです。

 それは骨盤底筋体操です。俗に言う、膣トレです。

 フランスではこの膣トレが保険診療の対象ともなり、産後に助産師や「キネ」と呼ばれる理学療法士に指導してもらうのが一般的です。私も産院で勧められていた記憶はありましたが、授乳に精一杯でそんなことにまで頭が回っていませんでした。そう、私にとっては「そんなこと」だったのです。

 アリスは先ほどからその話ばかりしています。膣トレをして下腹部がみるみる引き締まってきたこと。インナーマッスルが鍛えられて腰痛も解消したこと。ズレてしまった骨盤もきちんと元に戻るらしいから、続けるのが肝心なこと。まるでマーケティングのプレゼンをしている時みたいに、アリスは理路整然と、そして熱心に語っています。私など口を挟む暇もありません。

次のページへ自分らしい身体を取り戻す
1 2 3