アリスの家を後にした私はしばらく考え込んでしまいました。いい母乳が出るように食生活に気をつける以外、自分のケアなんてこの数ヶ月、すっかり忘れていた私です。我が子のことで頭が一杯。自分のことなんか「どうでもいい」とすら思っていました。
アリスに限らず、パリジェンヌは産後のセルフケアを怠りません。赤ん坊の健康管理と同じくらい、自分の身体のダメージ、そして心身の不調に細心の注意を払います。無痛分娩が当たり前のフランスですが、それでも数ヶ月に及ぶ妊娠期間、そして出産は身体にかなりの負担をかけるものとされ、「自分を労(いたわ)るため」の努力は惜しみません。産休はそのための期間であるという認識があるくらいです。
「自分らしい身体に早く戻りたいのよ。母親である前に、私は私だから」
そう言い切るアリスは、自己犠牲をしてまで子育てをする気はないと言います。言い方を換えれば、パリジェンヌは母親になっても、私のように天動説がひっくり返るようなことはないのです。
宇宙はいつだって自分を中心に回っています。
パリジェンヌはすっぴんがお好き
藤原 淳