私達日本人にはあまり聞きなれない、そしてなじみのないメソッドがフランスをはじめとする欧州全土で好評を博しているのですから、私は狐につままれた気持ちでした。日本生まれのマッサージがこれだけ流行っているということは、日本人としてとても嬉しいことですが、なぜ、日本では下火の美顔術がこれほどまでにパリでもてはやされているのか、いまいち理解ができなかったのです。

効果があるのは肌よりむしろ「心」

 そんな時、友人のティエリーと話す機会がありました。広告会社に勤めていたティエリーは本家本元の望月師匠の講義を受けて古美道に目覚め、退社して古美道専門のエステを開いた強者(つわもの)です。ティエリーは私の質問に快く答えてくれました。

「フランスには、もちろんレーザー治療やボトックス注射など、進んだ美容医療術は幾らでもあるけど、フランス人女性って顔をあれこれいじくり回す前に、自然の力を使って調整することを好むんだよ」

「でも、どうして今さら古美道なの? 他にもあるでしょ? フランスってほら、フェイシャル・マッサージ天国じゃない?」

 そう差し向けると、ティエリーは少し考えてから言いました。

「そうだね、一番の理由は古美道の効果じゃないかな。いろいろな国でマッサージを学んだ俺だから言えることだけど、古美道の教えはすごいよ」

「効果って? リフトアップ効果のこと?」

 食い下がってみると、ティエリーは呆れたように言いました。

「ジュンには古美道の『道』の意味、説明しなくてもわかるでしょ。古美道は茶道や柔道と同じで、大事なのは心を鍛えること。それはマッサージをする側もされる側もそうだよ」

 してやられた、とはまさにこのこと。フランス人に日本の精神文化論を説かれるとは思ってもいなかった私が言葉を失っていると、ティエリーはこう断言しました。

「効果があるのは肌じゃない。むしろ心の方だよ」

 完全にノックアウトでした。パリジェンヌが古美道に執着するのは、肌の手入れのためではなく、心のケアをするためだったのです。

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