理想通りにはいかない子育て

 その次にぶつかった壁が自己嫌悪です。だんだん育児に慣れてくると、急いでいる時なんかに「いい加減に早くしてよ」などと言ってしまうことが出てきました。子育ての勉強はしてきたつもりですが、実際の子育てではなかなか理想の声かけが通じない。でも強く言ってしまうと母親を思い出してしまい、「(母と)同じこと言ってしまったかも」と不安になるんです。そうすると「あ〜ダメだな……」って1週間くらいずっとモヤモヤします。これは今でもありますね。

――絶対にこれはやらないぞ!と決めている子育てルールはありますか。

 はい、あります。まず子どもに暴力を振るわないこと。どんなにイライラしていても絶対に手を上げないって決めています。それから、子どもの存在を否定するようなことは絶対に言わないこと。「◯○なんて嫌い」「○○なんていなかったらよかったのに」と言ったり、誰かと比べたりはしないようにしています。

――子育てが始まってからつつみさんの中でどのような変化がありましたか。

 子どもと接しているので、すごく明るくなったなって思います。自分も子どもに返ったような気持ちになって、一緒に遊んだりはしゃいだりしています。自分の子ども時代をやり直しているような感覚です。昔できなかったことが今できている。子どもとしゃぼん玉で遊んだり、ピクニックしたり、絵を描いたり。些細なことなんですけどすごく楽しいなって心から思えるんです。

 息子は、大人はみんな私と同じようにお絵描きできると思っていて、「パパも描いて〜」と言われてパパは困っていますけどね(笑)

――著書の結びに「私はいつも涙が出そうなほど幸せな気持ちになります」というフレーズがありますが、今どんなことで涙が出そうなほどの幸せを感じますか。

 子どもが無邪気に笑い声をあげて楽しんでいるとき、一番幸せを感じます。私たちの前を走って笑顔で振り向いて、「楽しいよ」って気持ちを共有しようとしてくれる。その無邪気な姿を見ると心が洗われます。

 これからどんな子育てが待っているかわかりませんが、私はとにかく子どもに寄り添ってあげられる親になりたい。たくさん話ができる家族になれたらいいなって思います。

※前編<“毒親”に育てられたマンガ家が語る、親との絶縁 「周りの人のおかげで『見捨てるな』という母の洗脳が解けた」>から続く

(聞き手/大楽眞衣子)

毒親に育てられた私が母になる

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大楽眞衣子
大楽眞衣子

ライター。全国紙記者を経てフリーランスに。地方で男子3人を育てながら培った保護者目線で、子育て、教育、女性の生き方をテーマに『AERA』など複数の媒体で執筆。共著に『知っておきたい超スマート社会を生き抜くための教育トレンド 親と子のギャップをうめる』(笠間書院、宮本さおり編著)がある。静岡県在住。

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