――兄弟それぞれ、「好きなこと」の道へ進んだのですね。

 兄も弟も、自分の好きなこと、やってみたいことが軸としてある形での受験となりました。「偏差値が少しでも高い私立中学に入ること」や「中学受験をすること」自体が目的にはなっていないんですね。学校も、「好きだ」「やってみたい」という気持ちにマッチしているから選ぶのであり、学校に自分を合わせようとはしていない。それは中学受験の理想であり、一番大切なことだとわかっていますが、そこまで親子で覚悟を決めるのは容易なことではありません。

 大学受験を前に、兄は「京大を目指す」と猛勉強を始め、そんな兄の姿を見た弟も勉強をおろそかにすることはなかったですね。兄は京大への進学はかないませんでしたが、慶應義塾大学理工学部に合格し、いまは生物を専攻しています。興味の対象は虫から魚へと移り(笑)、小笠原諸島に行き3週間もの時間を過ごしたり、船の上で1週間過ごしたり、といった日々を送っているようです。

偏差値や倍率より、「子どもに合う環境があるか」

――受験の結果よりも、子どもたち一人ひとりの人生のことを親御さんが考えていらしたんですね。

 一番下の妹さんを含め、それぞれが望んだ通りの道を進んでいます。それは、やはり親御さんがすごい、と僕は思っています。やりたい環境が手に入らなかったとしても、無理やりほかの道に進ませるという選択をしなかった。子どもが「この道だ」と決めたら、それが嫌になればやめてもいいけれど、「好きなのに、ほかの道に進むのは違う」という考えをしていた。

 パワフルでありながら、一人ひとりを丁寧に見ていて、「好き」を追求できる環境を作りあげてきた。そうした両親の姿勢は子どもたちにもしっかりと根づき、兄はいまも魚を釣るべく日本各地を巡ることにバイト代のすべてを注ぎ込んでいる(笑)。大学以外でも、気の合う仲間を見つけ、楽しそうに過ごしています。強烈に好きなものがあるからこそ、それが魅力となり、人が引き寄せられていくのだな、と感じます。

 中学受験で言えば、偏差値や倍率、日程といった現実的な面を考え受験校を決めるというパターンが多いですが、彼らは希望の学校に入れないなら「地元の公立中学校に進む」という選択肢をしっかりと持ったうえで受験をしていた。家族そろって芯があってカッコいいな、と思いますし、僕は親として負けているな、と感じます。兄弟間でも互いに、「アイツはすごい」と言い合える関係を築いている。徹底的に「好き」を追求した珍しいケースの受験として、いまもときどき思い出しています。

(聞き手/古谷ゆう子)

「偏差値が高い学校」に入ったほうが子どもは幸せなのか 中学受験の人気塾長がみた、卒業生たちの“その後”
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茂山起龍
中学受験塾「應修会」塾長 茂山起龍

しげやま・きりゅう/1986年生まれ。中学受験を経験し、大学附属校に入学。大学在学中から個別指導塾、大手進学塾などで中学受験指導に携わる。会社経営の傍ら、2011年、東京・西葛西に中学受験指導塾「應修会」を開校。自らも教壇に立って指導を行う。中学2年、小学6年の男子の父。X(旧Twitter)での中学受験についての発信も人気で、フォロワーは1万人を超える。X: @kiryushigeyama

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