トリチウムを含んだ水は、国内外の原発や原子力関連施設で海に放出されている。トリチウムの国の放出基準は1Lあたり6万ベクレルで、現在、海に放出している処理水の濃度はその40分の1未満だ。トリチウム以外の放射性物質も放出基準を大きく下回っている。
このため、国際原子力機関(IAEA)は「国際的な安全基準に合致している」と放出のお墨付きを与えた。汚染水はこれからも増え続けるため、処理水の海洋放出は、約30年は続く見通しだ。
中国と香港が日本産の水産物輸入を停止
安全基準に合致しているとはいえ、日本の水産物などへの風評被害が心配された。処理水放出後、日本国内や多くの国では目立った風評被害は起きていないが、突出しているのは中国だ。中国政府は海洋放出が始まった日から、日本産の水産物の輸入を全面的に停止すると決めた。香港も同日から10都県の水産物の禁輸を始めた。22年の日本の水産物の中国への輸出額は871億円で、全体の約2割を占め、最大の輸出先だ。香港も755億円で次いで大きい。中国と香港への輸出が止まると、日本の水産業にとっては大きな打撃だ。中国ではほかにも海洋由来の成分が含まれるなどとして日本の化粧品を使わないようにする動きなどもある。

中国政府の対応は科学的根拠のないもので、経済成長が鈍っていることで芽生えている国内の不満をそらそうという狙いや、中国への締め付けを強めているアメリカに日本が追随していることへの反発などがあるのではないかとみられている。
日本政府や東電は、海水や魚介類の検査を長期にわたって続け、情報を積極的に公開していくとしている。この問題の根本には、東電が原発で重大な事故を起こしてしまったことがある。そのことを忘れずに、東電も政府も誠実な対応を続けることが大切だ。それによって安全な基準を満たしていて心配ないという安心が得られれば、中国の反発や地元の漁業者の不安もいずれ解消されていくと思われる。
(ジャーナリスト・一色清)

朝日新聞出版

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