「国語力がハンパないやつがいる」。花まる学習会代表の高濱正伸先生が知人からこう紹介されたのが、小説家になる前の小川哲さんでした。いまや数々のヒット作を放つ人気作家となった小川さんが語る、言葉に関する数々のエピソード。抱腹絶倒と同時に、その着眼点の鋭さやこだわりの強さに、感心しきりの高濱先生です。現在発売中の「AERA with Kids 2023年夏号」(朝日新聞出版)から抜粋してご紹介します。

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「七転び八起き」は、なぜ「七転び七起き」ではないのか

高濱 小川さんは「国語力がすごい人」だけど、もとは理系だったんですよね。

小川 はい、算数のほうが得意でした。読書は好きでしたけど科目としての国語はつまらなくて。でも在学中に文系に転部したとき、これまで本を体系だって読んでいないと思ったので、岩波文庫を1日1冊、順に読破していきました。日本文学から海外文学、思想・哲学まで全部。

高濱 やることが徹底しているよね。でもそういう下地をつける前から、言葉にはこだわりがあったんでしょ。

小川 そうですね。気づいてしまうとなんでだろうとずっと気になってました。

高濱 たとえば?

小川 小学生のときに気になったのは、上と下、右と左という漢字。上と下はちゃんとひっくり返した形になっているのに、右と左はそうじゃない。なんで?と。上下のように美しくない左右という漢字にイラッとしてましたね。

高濱 どうやって解決したんですか。

小川 大人に聞いたら、それぞれ漢字の成り立ちが違うからと説明されたと思うけど、あまり納得できなくて。もう少したってから、成り立ちってそういうことかと。あと気になったのは「七転び八起き」ですね。7回転んで起きるんだから「七転び七起き」じゃないか、おかしいぞって。頭の中で転んで数えてみてもやっぱり7回。これも納得いかない。

高濱 あれは奥が深いよね。なぜ8回かといえば、人間は生まれたときは赤ちゃんで初めは寝ていて、つまり起きるところから始まる。だから八起き。でもふつうはなかなか気づかない。

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篠原麻子
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