高濱 こういう子はどう育ってきたんだろう。ご両親はどんな人だったんですか。
小川 二人とも読書は大好きでしたけど、共働きでふつうの勤め人ですよ。あ、でも僕はふつうという言葉が小さいころから大嫌いで。言葉ではなく、使い方。「ふつうそうでしょ」とか「みんなやってるから」という言葉は嫌悪してました。しかし大人はやたらにこれを使うんですよね。
高濱 常套句だからなあ。
小川 事実としてはいいんです。これがふつう、これはみんなやってるという事実は。でもそれは「だからお前もやれ」という理由にはならない。
高濱 日本の教育はそればっかりだけど。
小川 「みんなやってるから」と「お前もやれ」の間には2段階くらい理屈があると思うんです。いまはみんながこれをやる時間で一人だけ違うことをするとこういう不具合が起こる、だけど一緒にやればこんなふうにうまくいく「から」やってくれ、くらいのね。それを説明してくれないと「から」は成り立たない。
高濱 「から」ではない、か。さすが言葉にこだわるなあ。
小川 もちろん、みんな一緒にやらないとうまくいかないことは、世の中にたくさんあります。だけどその間をきちんと説明してくれないのは、手抜きだと思う。しかも大人は都合よく理屈を変えるじゃないですか。「ゲーム買って、みんな持ってるよ」って言うと、「よそはよそ、うちはうち」って(笑)。子どものころは大人に対する不信感はけっこうありましたね。
高濱 ご両親は大変だったでしょうね。
小川 母から「勉強して」「この本読んで」と言われると、意地でもしませんでした。たとえやろうと思っていたとしても言われたらやらない。自分の意思で始めたいから。それに母のためにもならない。
高濱 どういうこと?
小川 ここでぼくが母の命令通りに動いたら、この子は命令したらなんでもやる子だって勘違いしてしまうから。
高濱 おー素晴らしき屁理屈の世界。こういう生徒大好き。
小川 そのうち母もそういうことはいっさい言わなくなって、方法を変えてきました。本を読んだらいくら、塾のテストで上位に入ったらゲームソフト1本みたいな報酬制になりましたね。
高濱 労働にしたんだ!
小川 はい、ぼくもそれならいいかなと。母はアガサ・クリスティが好きでぼくにも読ませたかったらしく、読んだかチェックで犯人とトリックを聞いてくる(笑)。
高濱 実は親子して似ているんじゃないの。教育界では報酬制に否定的な意見が多いけど、ここに成功例がありました。
小川 成功例かは微妙ですけどね。結局は子どもによるんだと思います。ぼくには妹がいるんですが、母は妹にそんなことをしなかった。報酬制はぼくみたいなひねくれた子にはいいのかもしれない。
※「AERA with Kids 2023年夏号」(朝日新聞出版)から一部抜粋。
(構成/篠原麻子)
朝日新聞出版