たくさんのシカがいることで有名な、奈良市の奈良公園。シカはとても人に慣れていて、鹿せんべいを持った人のところへ怖がらず寄ってくる。観光用に飼われているのかと思いきや、実はみな野生のシカだという。いつ、どこからやってきたのだろう? 小中学生向けニュース誌「ジュニアエラ」6月号(朝日新聞出版)から紹介する。

MENU 観光用に見えるけれど実はみな、野生のシカ 紀伊半島全域の野生のシカのDNAを解析 約1400年前、農地化と保護で奈良公園のシカは独自の集団に

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観光用に見えるけれど実はみな、野生のシカ

 大仏で有名な奈良市には、奈良公園という広い公園がある。そこには人に慣れたシカがたくさんいて、観光客が売店で買った鹿せんべいを差し出すと寄ってきてうれしそうに食べる。このシカと予備知識なしに接した人は、観光のためにシカを放し飼いにしていると思うだろう。でも、それは正しくない。奈良公園のシカは、野生のニホンジカだ。

 奈良市の周辺は古代、開けたところで、約1300年前には平城京と呼ばれる都が置かれていた。現在も市の周囲には住宅地や農地が広がり、野生のシカが生息していそうな深い森はない。

 では、奈良公園のシカはどこからやってきたのだろう? 

紀伊半島全域の野生のシカのDNAを解析

 シカは、古くから狩りの対象として人に利用されてきた。肉は食料に、角は漢方薬や工芸品に、革は武具などに利用された。また、シカは信仰の対象でもあった。奈良公園に隣接する春日大社は、奈良時代の768年に建てられ、祭っている武甕槌命が白鹿に乗ってきたとされることから、シカを神の使いとしている。

 奈良教育大学、福島大学、山形大学からなる共同研究チームは、奈良公園のシカはこうした人間活動によって大きな集団から切り離されてやってきたと考えた。では、もとの集団はどこにいて、いつごろ切り離されたのか。奈良公園を含む紀伊半島全域の30地点から294頭のシカの筋肉や血液を採取し、DNA(※)を取り出して解析したところ、奈良公園のシカは、紀伊半島のシカと共通点が多く、ほかの地域から連れられてきたのではなく、もともと紀伊半島にすむシカであるとわかった。

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上浪春海
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