じわじわと高まっている別学志向も、中学受験の大きな理由になる。上の図は23年の出願率を、二つのタイミングで切り取って比べたものだ。
下の「最終出願率(前年比)」では共学校が概ね前年どおりの数字となっているが、東京都では女子校が2校減り、共学校が2校増えている。さらに共学校には応募倍率が約36倍になった躍進校が含まれているにもかかわらず、最終的な数字が「ほぼ前年どおり」というのは、実質的にはむしろ減少傾向といえそうだ。一方で上の「1月17日時点の出願者(前年比)」を見ると、とくに女子校で、早い段階での出願率が高くなっていることがわかる。男子校も女子校ほどではないものの、共学校に比べると明らかに高い。安田さんはこうした現象を「共学校は数が多いので迷いやすいため」だと分析する。
「独自の校風や伝統がある別学に比べると、共学校選びの際は、難度や倍率で決めようとする傾向があります。そのためギリギリまで出願を控えているのでしょう。締め切ったあとの数字ではわかりにくいですが、早い段階の数字を見ることで、別学は明確な意思を持って選ばれていることがうかがえます」
宗教系、芸術系など私立ならではの指導も
子ども自身がやりたいこと、家庭の方針が明確に合致している場合、私立中学の受験は当然スムーズになる。安田さんは「宗教系の中高一貫校は人間性を育むのにも有効」だと語る。
「中学受験の人気は社会情勢への不安の表れでもあるでしょう。未来を生き抜くための折れない心、あるいは挫折したときの立ち上がり方など。宗教系の学校ではそうした精神を養ってくれるというメリットがあります。また、例えば芸術に強い明星学園は、出願者のほぼ一〇〇%が実際に受験します。希望がしっかり固まっているからこそ、志望校も揺らがないのでしょう」
近年の学校教育のトレンドとして、「グローバル教育」「STEAM教育」「探究」などが挙げられる。これらは公立ではまだあまり手がついていない。次代を生きていくうえで必要なこうした教育を重視する場合も、中学受験が視野に入ってくるだろう。
また、中学受験の明暗を分けるといわれているのが、保護者がどれだけ子どもに時間を割けるかという点だ。受験のために仕事をセーブする保護者も少なくないが、安田さんの見立ては少しだけ違う。
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