こうした時、子どもは、困っている人に親切にしたい、お母さんが心配という防犯モラルジレンマに陥ります。日頃から『その場で道を教えれば十分親切だよ』『家族に何かあっても、よその人に頼むことはない』と教え、子どもが困らないようにしましょう」

 また、子どもが危険な行為に気づくには、相手との適正距離を理解することも欠かせないそうです。

「人には、これ以上立ち入られたくない『パーソナルスペース』があります。家族など親密な関係なら、パーソナルスペースの中に入る『ぴったり距離』(0~45cm)でもおかしくありません。仲の良い友達は、もう少し距離を緩めた『ゆったり距離』(45~75cm)、初対面の人や目上の人は、お互いに両手を伸ばしたくらいの『きっちり距離』(1m20cm)が適切です。この距離を保ったコミュニケーションがマナーです。大人が『きっちり距離』を越えて近づいて来た時は、『いやです』と言ったり、その場を離れて助けを求めたりすることを伝えてください」

■緊急時に防犯ブザーを鳴らせた子はわずか2%

 実際に、危険な目に遭ってしまった時の対応も、子どもと話し合っておきたいところです。この時、相手を攻撃するなど、反撃するように教えることはNG。

「子どもは大人に太刀打ちできませんし、返り討ちに遭って逆効果になる恐れがあります。防犯対策は『緊急時には十分に対応できないかもしれない』という前提で、いくつかバリエーションを用意してください」

 ひとつは、防犯ブザーを鳴らして助けを求めること。普段から練習しておくといいそうです。

恐怖で声を出せない場合に備え、「たすけて」カードを作るのがおすすめ。
恐怖で声を出せない場合に備え、「たすけて」カードを作るのがおすすめ。

「私たちの調査では、危険な行為に遭遇した小学生のうち、実際に防犯ブザーを鳴らせた子どもはわずか2%でした。とっさに防犯ブザーを思い出せなかったり、壊れていたりすることが多いからです。毎日、出掛ける前に1回鳴らしてみるなど、大人がサポートしましょう。

 怖くて声も出せない時は『たすけてカード』(上記図)を通行人に見せるのも一つの方法です。また、地域の人とコミュニケーションを取ることも立派な防犯対策。買い物の時に子どもが支払いをして、お店の人と言葉を交わした経験があると、いざという時に助けを求めやすくなります」 

(取材・文/越膳綾子)

宮田美恵子さん
宮田美恵子さん

〇宮田美恵子(みやた・みえこ)さん/日本こどもの安全教育総合研究所理事長。子どもの安全体験学習プログラムを推進。著書に『うちの子、安全だいじょうぶ?』(新読書社)、カード教材に『こども安全カード100』(幻冬舎)。

※『AERA with Kids 2022夏号』から一部抜粋

AERA with Kids (アエラ ウィズ キッズ) 2022年 夏号 [雑誌]

朝日新聞出版

AERA with Kids (アエラ ウィズ キッズ) 2022年 夏号 [雑誌]
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越膳綾子
ライター 越膳綾子
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