なぜかというと、普段子どもは大人や先生から「あれしなさい、これしなさい、勉強しなさい」と命令され、両者は垂直の関係にあります。でも、ドリトル先生はそんなことを一切言わないし、彼を子ども扱いせず「ミスター・スタビンズ」と呼ぶんです。

 ドリトル先生は先生ではあるけれど、垂直ではない、斜めの関係なのです。そんな大人と出会うのはスタビンズくんにとっても初めてのことだった。理想の大人に出会って成長していくという原作のすばらしい構造を、この作品でも大切にして書いたつもりです。

■勉強がなんでもかんでも好きである必要はない

―――普段の勉強を楽しく感じられない子も多いと思います。福岡さんのように学びを楽しく続けるにはどうしたらよいでしょう。

 学校の学びがつまらないというのは、私もすごくよくわかるんです。勉強がなんでもかんでも好きである必要はなくて、何か一つでも、「好き」があればいいんじゃないかなと思います。

 インターネットもケータイもない昭和の真ん中に生まれた私は、美しいチョウチョウやかっこいいクワガタムシに心を奪われる昆虫少年でした。調べるとチョウチョウにもいろんなタイプがいて、いろんな生き方があって、それぞれすみ分けて生きているんだなというのがわかってきます。

 アゲハ蝶がどこにいるのかを知るには、アゲハ蝶が何を食べるかを知らないといけない。虫が好きだったことから始まり、植物も見分けられるようになる。そんなふうに夢中になって一つのことを掘り下げる過程で、いろいろなことがつながっていく。つまり点と点がつながっていくことで、学びがさらに楽しくなっていくと思います。

■夢がない人はたくさんいるし、それでいい

―――夢を実現するために、どんなことが大切ですか?

 他者が「夢を持て」というのは無責任で、夢がないという人もたくさんいるし、それでいいと思います。

 でも、何か自分自身が興味を持っていること、好きなことというのは誰にでもあるのではないでしょうか。それがゲームとかコンピューターとか、どんなことでもいい。その好きなことを、ずっとずっと好きであり続けることが何より大事です。それが学びを豊かにし、その人の人生を支えてくれる。

 私はガラパゴスのことを知ってから実際に行くまでに、50年くらいかかりました。好きなことならずっと考え続けることができて、自然とチャンスも巡ってくるのだと思います。

(構成/ジュニアエラ編集部・吉田美穂)

○『新ドリトル先生物語 ドリトル先生 ガラパゴスを救う』
朝日新聞連載の書籍化。医者のドリトル先生と助手のスタビンズ少年は、英国の調査船が南米に向かうことを知る。ガラパゴス諸島にも向かうと聞き、島の大自然が英国によって荒らされるのを防ぐべく、先生とスタビンズ、オウムのポリネシアたちは手作りの気球でガラパゴスを目指す。だが気球は墜落して不時着し――!? 一行はガラパゴスを救うことができるのか? 奇想天外で楽しい冒険物語にして、10歳のスタビンズ少年が、自然や社会を知っていく成長物語。

新ドリトル先生物語 ドリトル先生ガラパゴスを救う

福岡伸一

新ドリトル先生物語 ドリトル先生ガラパゴスを救う
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吉田美穂
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