彼が辞めたことを、ずっと自分のせいだと悔いていました。でも先日、20年ぶりに彼に会いました。航平と同い年の子です。「12歳で辞めてしまったけれど、体操は楽しかった、辞めなきゃよかった」と言ってくれました。つらい思い出でなく、楽しい思い出になっていたと知って、私は泣きました。 

――航平さんも3月に引退され新たな道へ進まれました。親として思うことは。

 どんな新しい人生を歩むのか、親としても楽しみにしています。もし必要とされることがあるならば、応えられるようにしておきたいなと思います。

 体操しかしてこなかった子ですので、これから大変だと思います。でも、体操以外にもいろいろな世界があるということを知っていってほしい。この間、「ゴルフが楽しい」と話していました。すごく下手らしいですが(笑)、楽しいと思えることに出合えて、「ああよかったな」と思いました。

 世界は広いです。人生も長い。一度、航平に「お母さんは長く生きているぶんだけ、伝えられることもあるかもしれないよ」と言ったことがあります。子どもが必要としているとき、母として言葉を送るなどして、子どもが安心できる人生を送るサポートをしてあげられたらと思っています。

――保護者への講演会活動で全国を飛び回る周子さん。人を育てるうえで大切なことはどんなことだと思われますか。

 よく講演会でお母さん・お父さんたちにお伝えするのは、「あなたらしくいてください」ということです。自分の子どものことを一番よく知っているのは、お父さんお母さん。人を参考にするのはよいですが、真似をしたり比べたりするのはきついですよね。子ども一人ひとり、特性がまったく違うのですから。子どもとしっかり向き合い、心を理解するように努めて自分流に努力していけば、きっとお子さんも安心していろいろな世界に飛び込んでいけるのではないでしょうか。

(取材・文/AERAdot.編集部・平井啓子)

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