非認知能力とは何かというと、集中力、空間認知能力、状況を判断する力、協調性などです。テストの点で出てこない能力ですね。実は航平も、幼いころは運動神経が飛び抜けてよかったわけではなく、周りと比べても体操がすごくできるという感じではなかったのです。小学校1年生で、体操の団体戦に出たときは、一人だけバック転ができなかった。でも、幼いころから集中力だけはズバ抜けていたんです。

 その集中力をどうやって養うかというと、私は「絵本」を使ったんです。『こぐまちゃんのみずあそび』とか『のりものいっぱい』とか、昔からありますよね? ああいう絵本を使って読み聞かせたあと、パッと本を開いて、「そこに何が描かれていた?」「クマちゃんがいたねー」というようにクイズを出して子どもたちに説明してもらうのです。それを繰り返すことで集中力が鍛えられ、右脳のトレーニングにもなる。

 複雑な体操の技を実現するには、その技の一コマ一コマを切り取って体の動きを理解することが重要なのですが、航平は昔、体操のビデオを繰り返し見ながら、紙にコマ割りの絵を描いて覚えていました。「集中して瞬時に場面を覚える」という当時の絵本トレーニングが役立っていたのかなと思います。実際に今、年少クラスでも、長崎では小学生にも、運動を始める前に絵本を読み聞かせています。

江東区のレッスンで子どもたちにお手本を見せる内村周子さん(撮影/写真映像部・高野楓奈)
江東区のレッスンで子どもたちにお手本を見せる内村周子さん(撮影/写真映像部・高野楓奈)

――レッスンを見ていたら、1~2分ごとに子どもたちに違う動きをさせていました。

 大切なのは、子どもを飽きさせないこと。次から次へと、前回りだ開脚だ鉄棒だ……とテンポよくやっていくのが“周子メソッド”です。説明も長くしてはダメ。さっと聞いて、体で理解するのが一番だと思っています。

 あとは、【人の話を聞き、そして、お友達のわきを通って鉄棒にぶら下がったあと、自分の場所につく】というような、一連の動作も大切にしています。「ここを通ると人とぶつからないんだ」と理解することで、空間認知能力が育ちます。順番を守り、きちんと座るといったルールを何度も繰り返すのは協調性や状況判断力を鍛えるためです。レッスンの様々な動作が、非認知能力を育てることにつながるように工夫しています。

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