高濱:本気になったんですね。自分で選んで。

村田:そうなんです。だからここまで続けられたんだと思います。そのジムが父の職場と近かったので、父が毎日車で迎えにきてくれました。何を話すわけでもないんですが、中学時代のあの1年間があって、父との関係がずいぶん変わりましたね。一度ジムで鼻をやられたとき、父は病院に連れていかないで、コンビニでパピコアイスを買って「これで冷やせや」って(笑)。溶けかかったパピコの、チョココーヒー味は今でも覚えてる。

高濱:それからはボクシング一筋?

村田:高2のときに選抜・総体・国体のいわゆる3冠をとって、3年生のときキャプテンになりました。高校時代の監督、武元前川先生は僕の恩師です。

高濱:どんな先生だったんですか。

村田:怖い先生で、ドキッとすることをいっぱい言われました。「勝ってもガッツポーズをするな、そこには負けた人間もいるんだ」とか、決勝にいけずに3位になり、ふてくされてその賞状を放置した部員には「賞状を大切にできない人間は、上にいけないぞ」とか。確かにその人はその後いい成績がとれなかったんです。でも一番心に残っているのは、新入生歓迎の部活紹介で、僕がパンチを披露しようと新入生を軽く殴ったつもりが、もろにパンチが入ってしまって救急車を呼ぶ騒ぎになってしまったとき。これは先生にとんでもなく怒られると思ったら「おまえの拳はもう普通と違う。だからそんなことに使うんじゃない」と静かに言われたことですね。

高濱:……深いですね。

村田:先生は五輪選手を育てるのが夢だとおっしゃっていました。でも2010年に急逝されて。僕はその2年後に金メダルを取れたので、先生の夢のさらに上をかなえることができたと思っています。

高濱:村田さんは、現役を一度引退したあと、復帰して金メダルを取り、プロに転向し、チャンピオンになり、防衛に失敗したこともあったけれど、そのあと奪還し……という、とてつもないプロセスを経てきていますよね。モチベーションを保ち続けられる秘訣は何ですか?

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