矢萩:ちょっと違う視点から見ると、まず入試問題は知識ではなく思考力を問うような問題を中心に多様化が進んでいます。今年度、そのような従来とは違うタイプの問題を出した学校は首都圏だけで150校を超えています。大前提として、そういう問題は偏差値がつけにくいんです。同じようなスタイルの問題で、採点基準や模範解答がきちんと共有されているような問題をみんなで受けたときに偏差値ってはじめて意味が出てくるものなので、いろいろな問題が出てくるようになった現在の状況では、なぜその学校がその偏差値なのか、ということを疑ってかからなくてはいけないところがあります。

安浪:確かに思考力型や適性検査型の入試って、偏差値の基準も微妙ですし、対策もしにくいですよね。私は入試対策する側の人間だから、一般入試に関しては偏差値とは別に、問題の傾向をチャートにしたりしています。

矢萩:偏差値以外にもいろいろな視点や軸ってあるじゃないですか。ですから多様な切り口の一覧表が出てくるといいなって思っています。それこそ、安浪さんが作っているチャートもその一つだと思うんです。いろいろな表を見て、こちらではここに位置しているけれど、こっちのチャートではここにカテゴライズされているんだ、といったような立体的な見方ができると、もっと学校選びはわかりやすくなるし、健全になると思います。

■偏差値を高くしたいのは悪いことではない

安浪:確かにそうですね。でも、このお母さまが思うように、偏差値を高くしたい、というのは決して悪いことではないんですよ。偏差値が上がれば実際に選択肢は広がりますし。ただ、偏差値の数字だけを見るのは危険、ということですね。

矢萩:偏差値にとらわれるリスクを体で感じるお話をさせていただくと、僕は今、キャリア支援だとか、企業の人事などにも関わるような仕事をさせていただいているんですが、そこの方とお話をしていると、いかに詰め込まれてない学生を採用するか、という視点が出てきているんです。要は、詰め込み型の勉強で偏差値が高い学校に行けたとしても、主体的に動けないような社員は「うちはいりません」ということ。もちろん、まだマニュアル通りに動ける人を求めている企業もありますが、マニュアルがないと動けない人はいりません、という企業は増えていますね。10年後はもっと変わると思います。もちろん、偏差値の高い学校でも詰め込んでいない学校もあるし、中堅校でも詰め込みまくってなんとか大学実績を出そうとしている学校もある。つまり、偏差値ではなく内容なんですよね。入る前も大事ですが、入った後に6年間どんな環境でどんな教育を受けて卒業していくのかが大事です。

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