やべ・たろう/1977年生まれ。芸人・マンガ家。初めて描いた漫画『大家さんと僕』で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。他の著書に『大家さんと僕 これから』『「大家さんと僕」と僕』(共著)がある(撮影/写真部・加藤夏子)
やべ・たろう/1977年生まれ。芸人・マンガ家。初めて描いた漫画『大家さんと僕』で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。他の著書に『大家さんと僕 これから』『「大家さんと僕」と僕』(共著)がある(撮影/写真部・加藤夏子)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【動画】矢部さんのインタビュー動画はこちら

 矢部太郎さんによる『ぼくのお父さん』では、40年前の東京・東村山を舞台に、幼い太郎少年と絵本作家の「お父さん」とのエピソードが綴られる。父・やべみつのりさんが太郎さんの日常を観察して描いていた絵日記「たろうノート」のエピソードをヒントに、太郎少年の5~6歳の生活がオールカラーで描かれた。「世界が鮮やかに見えて、何でも新しく吸収していたその頃の感じをカラーで描きたいなってこういう形にさせてもらいました」と語る矢部さんに、同著に込めた思いを聞いた。

*  *  *

 上品でかわいらしい大家さんとの交流を描いた『大家さんと僕』がシリーズ累計120万部突破の大ベストセラーとなった矢部太郎さん(44)。待望の新作は、絵本作家である実父のことを描いた、その名もズバリ『ぼくのお父さん』。他の家のお父さんのように会社には行かず家で絵ばかり描いているちょっと変わったお父さんと、それを変だと思いながらもお父さんのペースに巻き込まれて生活している太郎少年の日常が綴られている。

「何で漫画描けるんですか? あぁ、お父さんが絵本作家なんですね、血筋ですねって納得されることがあったりするんですけど、そんなことでもないよなみたいな気持ちもありつつ、でもそうなのかなって自分の中でもわからないところがあって、わかりたいという思いで描きました」

 実際に描いてみると、やはり血筋とはちょっと違うんじゃないかと思ったそうだ。

「何かを作ったり表現したりっていうのをずっとお父さんがやっていて、そういうことが日常にあったから、描くことに心理的な距離がなかったとは思います。ものを作る過程にこそ喜びがある、という父の考え方から、いつのまにか僕がたくさん感じていたものがあって、それで繋がっているのかなと思うんです」

 太郎少年はお父さんといろんな体験をする。つくしを取ったり、おもちゃを手作りしたり、屋根から花火をみたり、土器を焼いて失敗したり。子どもと真摯に向き合い一緒に成長していくお父さんは、ひとつひとつの過程を慈しむ。それは先にも語ってくれたように、矢部さん自身がお父さんの生き方から影響を受けている部分だという。

 最初に描かれたのは、飼っていたうさぎが死んでしまった時のエピソードだ。落ち込む太郎少年にお父さんはうさぎの亡骸を抱かせ、その姿を描く。だがその絵に太郎少年はいなくて……。大人になった今、お父さんのこの行動も理解できるようになった。

「つまり、お父さんが思う『ちゃんと別れる別れ方』みたいなことです。その当時はよく意味がわからないし、何だこれと思っていたけど、描くことで残すことができる。僕が大家さんとの別れを描いた『大家さんと僕 これから』を描いたのもそういうことなのかなと。だからこの本をこのシーンから始めたことには意味があると思っています。お父さんのことを描きながら、生まれてくるとか、育てられるとか、育つとかそういったことを考えられたかなと思います。この本は『死』から始まって、最後は『生きてる!』というセリフで終わるんです。明るい話になったし、この本を描くことで別れを違うふうに捉えなおすことになったかなと思います。それに、この本は人生で最初に出会った変な人の話みたいな感じもします、こちら目線だと」

 あちら目線だと?

「お父さんが出会った変な子どもの話かもしれないです(笑)」

(ライター・濱野奈美子)

AERA 2021年7月26日号

次のページ
矢部さんの動画インタビューはこちら!