
ウクライナ戦争でロシアの民間軍事会社「ワグネル」が報道されるようになった。どんな組織か。元駐ロシア外交官で著述家の亀山陽司さんに聞いた。AERA 2023年2月20日号の記事を紹介する。
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──ロシア軍は1月、ウクライナ東部ソレダルを制圧したと発表しました。昨年夏以来の主要な戦果とみられています。そのソレダルを制圧したのは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」だと同社は主張しています。いったいどのような組織なのでしょうか。
ロシアでは民間軍事会社を法的には認めておらず、ワグネルの存在は公然の秘密でした。今は明らかにロシア軍の一部として動いていますが、組織の詳細ははっきりしません。
■裏の仕事もする側近
ワグネルの創設者と言われているエフゲニー・プリゴジン氏は、レストランやケータリング会社などを経営して成功しました。彼はプーチン大統領に特に近いビジネスマンのうちの一人だと思います。場合によっては裏の仕事もする側近です。
あまり表に出てこない人でしたが、昨年秋、自身がワグネルのスポンサーであることを認めました。
──ワグネルとロシア正規軍とは、何が違うのでしょうか。
ワグネルの兵士は訓練を積んできた職業軍人だと言われています。だから強い。シリア内戦でも戦いました。それに比べて、秋から正規軍に徴兵されている人たちは戦いの経験がほとんどありません。
──ワグネルは囚人を雇って、前線に送っていると報じられています。
確信をもって言えるわけではありませんが、おそらくそうでしょう。ただ、だから強いというわけではないと思います。
ワグネルは2014年からウクライナ東部のドンバス地方で、現地の分離主義勢力を支援して戦ってきました。現在も東部の集落を少しずつ占領しながら侵攻を進めています。
ですが、ここにきて、ワグネルの位置づけが変わってきていると思います。
──どういうことですか。
そもそも民間軍事会社を投入するのは、正規軍を使うより都合がよいからです。兵士の練度が高いだけでなく、戦争に関する通常の法律が適用されません。兵士が亡くなっても国の責任にはならないでしょう。