元駐ロシア外交官で著述家の亀山陽司さん(写真:本人提供)

■合理的判断よりも感情

 でも、ロシアは昨年9月、国民30万人の動員を発表しました。動員するからには、国民の支持の下に戦わなければなりません。国民からすると、自分や、自分の息子が動員されるかもしれないからです。民間軍事会社も使った作戦的なレベルから、国を挙げた総力戦になったということです。全面的な戦争に近づきつつあるわけです。

──プリゴジン氏が支持していたスロビキン総司令官が1月に更迭され、代わりにロシア軍トップのゲラシモフ参謀総長が任命されました。プーチン政権で、ワグネルと軍主流派との対立が注目されています。

 おそらく参謀総長の任命も絡んでいて、正規軍が主役でないとだめな状況になりました。ワグネルだけが目立つことは、ロシアのプロパガンダとしても望ましくないわけです。

 プーチン大統領が国民に見せたいのは、ワグネルのような一企業ではなく、ロシア軍が成果を上げる姿です。「特別軍事作戦」が「国民の戦争」に変質しつつあることを表していると思います。

──ロシアにとってウクライナ侵攻の位置づけが「特別軍事作戦」から「戦争」になると、どうなるのでしょうか。

 合理的な判断で押したり引いたりできなくなります。「国民の戦争」は、合理的判断よりも感情に支配されやすくなります。止めたり交渉したりすることがより難しくなっていきます。かつて日本が第2次世界大戦に突入したのも、引くに引けない感情論の部分があったのと同様です。ワグネルうんぬんという次元ではなく、戦争の形態が変質しつつある兆候だと思います。

(構成/編集部・井上有紀子)

AERA 2023年2月20日号

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