岸田文雄首相は独自色を出したいが、影響力の強い安倍晋三元首相の存在も気になる……。複雑な関係性が垣間見える
岸田文雄首相は独自色を出したいが、影響力の強い安倍晋三元首相の存在も気になる……。複雑な関係性が垣間見える

 コロナ対策に奔走する岸田文雄首相が目下最も気を使う相手は──。「アベノマスク」や「佐渡金山」の問題、人事を見ると、その微妙な距離感が見えてくる。AERA 2022年2月21日号の記事から。

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 岸田文雄政権に対し、安倍晋三元首相の存在感がじわじわと増している。

 たとえば、佐渡金山問題。世界遺産登録をめざし、政府が国内候補としてユネスコに推薦を決めた背景には安倍氏の存在があった。そもそも昨年12月に佐渡金山が国内候補に選ばれた時、政府内では外務省を中心に推薦には消極的な声が多かった。韓国が佐渡金山を「強制労働被害の現場」として抵抗していたからだ。推薦しても韓国が異議を唱えれば登録は難しくなる。

■「清和会」対「宏池会」

 だが、安倍氏らは、これは歴史戦だとして反発。安倍氏が顧問を務める議員連盟「保守団結の会」は1月18日、速やかにユネスコに推薦するよう政府に求める決議をまとめた。

 また安倍氏に近い高市早苗政調会長は記者会見で「日本国の名誉に関わる問題だ」と語気を強めた。この問題は途中から「(安倍氏率いる)清和会対(岸田首相の)宏池会の政局」(外務省幹部)の様相を呈し、最終的に岸田氏は推薦を決めた。

 そもそも、岸田氏は政権発足当初から安倍氏との距離感に腐心してきた。岸田氏の独自カラーを出したい。だが、党内に影響力が依然として強い安倍氏とも関係を悪くしたくない──。安倍氏の影響力は、岸田氏が選出された総裁選で安倍氏が推す高市氏が健闘したのを見れば、一目瞭然だ。

 党幹部の人事では高市氏を政調会長に起用。幹事長も自分と安倍氏、及び安倍氏と盟友関係にある麻生太郎自民党副総裁とのパイプ役を務められる甘利明氏を置いた。甘利氏が総選挙の小選挙区で敗れて辞任すると、やはり2人に近い茂木敏充氏を後任に据えた。

■2人だけで2時間以上

 やはり安倍氏に配慮……と思いきや、微妙な距離も感じられる。たとえば同じく党三役である総務会長に抜擢した福田達夫氏。いわずとしれた福田赳夫元首相の孫で康夫元首相の息子で、清和会に属する。だが、「清和会には福田系と、岸系の二つの系統がある」(自民党ベテラン議員)。岸系とは安倍氏の祖父の岸信介元首相。「岸田首相は、清和会の福田系と岸系の間にミシン目を入れようとしている」(同)というのだ。

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