最高裁(左)大法廷は家事審判の決定で、夫婦同姓を定めた民法などの規定は憲法24条の「婚姻の自由」に違反しないと判断した。決定を前に、最高裁に入る申立人と弁護団(上)/2021年6月23日
最高裁(左)大法廷は家事審判の決定で、夫婦同姓を定めた民法などの規定は憲法24条の「婚姻の自由」に違反しないと判断した。決定を前に、最高裁に入る申立人と弁護団(上)/2021年6月23日

 日本では夫婦が別々の姓(名字)での婚姻は認められていない。しかし逆に、「夫婦別姓が原則」の国もある。その一つ、フランスの事情を紹介する。AERA 2022年1月17日号から。

【図】各国の結婚と姓の関係はこちら

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 筆者の家族には三つの姓がある。夫の姓、筆者の姓、そして両方の姓をつなげた子どもたちの姓。

 なぜこうなっているのか。私たちは日本で結婚をしたが、夫がフランス国籍だということもあり、日本側でも、もちろんフランス側でも、姓については何も問われず、特に深く考えることもなくそのままにしていたらこうなった、というのが正直なところだ。

■一体感を失うとの意見

 しかし、久しぶりに帰国した日本では「夫婦別姓」が熱心に議論されていた。法務省の調べでは、「夫婦同姓」を法律で義務付けているのは日本だけだという。つまり、選択的夫婦別姓の導入に反対している国は、世界を眺めてみても非常に珍しいと言える。

 では、日本の反対派の主な意見とはどんなものなのか。

「家族がバラバラの姓であることは、家族の一体感を失う」

 これは過去に国会に出された反対派の請願書の一部だ。日本が同姓を義務化している稀有(けう)な国だとすると、日本以外の国はおおむね、家族に一体感がない社会ということになる。何をもって一体感とするのかにもよるが、私は「バラバラの姓」の家族の一員として、一体感を人一倍演出しなければならないなどと感じたことはない。

 ただ、日本にも筆者のように考える人が一定数はいるようだ。2017年の内閣府の世論調査では、「家族の名字(姓)が違っても、家族の一体感(きずな)には影響がないと思う」と答えた人の割合が64.3%だった。

 筆者が長く暮らしたフランスでは、家族の中に複数の姓があるケースは珍しくない。そもそも法制度から姓の位置付けが日本とは全く異なる。ここに日本とフランスを相対化して捉えられるヒントがあるかもしれないと考え、フランスの姓の歴史に詳しい社会学者のキャロリーヌ・ボヴァールさんに聞いた。

 ボヴァールさんは「フランスの姓のあり方は特殊」だとし、その理由を「姓の変更自体が存在しない」からだと説明する。というのも、イギリスやアメリカのように姓の変更を認めるのではなく、フランスでは夫婦別姓が「原則」なのだ。フランス革命以前から出生時の姓が真の名前で、それは不変であるとされてきた。

「結婚してからは相手の姓を名乗ってもいいけれど、それはあくまで通名でしかないのです」(ボヴァールさん)

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