新型コロナウイルスの影響で東京五輪の開催に賛否の声が聞かれる今、私たちはオリンピックの歴史から何を学ぶべきなのだろう。小中学生向け月刊誌「ジュニアエラ」7月号では、雑誌のキャラクター、コビンとコビンナがスポーツ文化評論家の玉木正之さんに聞いた。

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――古代オリンピックは戦争を中断してまで行われたとか。本当に平和の祭典だね。

 そもそもスポーツは、とても楽しくて、心からやりたいと思えるもの。だから、戦争をやめて、スポーツをやろうというルールにみんなが賛成したんだよね。でも、残念ながら、日本ではスポーツは楽しむものと言い切れない雰囲気がある。実は、それを変えることが、今回の東京オリンピック・パラリンピックの目的でもあるんだ。

――そうなの? 東京大会の目的は、「東日本大震災からの復興」って聞いたよ。「新型コロナウイルスに打ち勝った証しにする」とも言ってるよね。

 それはどちらも後づけの理由。だって、そもそも東京大会の誘致活動が始まったのは2007年。東日本大震災の4年前だからね。

――じゃあ、東京大会の目的って何なの?

 日本のスポーツのあり方を、未来に向けて発展するように見直すことだよ。スポーツは本来、楽しむものなのに、日本では教育の一環の「体育」で、苦しくても我慢してやらなきゃいけないものとされてきた。それが、暴力的な指導や長時間の練習といった「ブラック部活」など、さまざまな問題の原因にもなっている。

――それは解決しなきゃいけないね。

 それには、法律や行政のあり方から変える必要がある。前回の東京大会の前、1961年にできたスポーツ振興法も、スポーツは「心身の健全な発達を図るため」とされているからね。それに、当時は障害者スポーツという考え方もなかったから、スポーツは今の文部科学省、障害者スポーツは今の厚生労働省の管轄とばらばらで、連携が取りにくいといった問題もあった。東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに、そんな問題を一気に解決しようと考えたんだ。実際に、東京大会の実現に向けて、スポーツ基本法ができたり、スポーツ庁が設置されたり、体育の日がスポーツの日と名称が変わったり、いろいろな変化が起きている。そういう意味で、もしも東京大会が中止になっても、目的はある程度達成できたといえるんじゃないかな。

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AERA編集部
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