■ますます息苦しくなる

 世間学が専門の九州工業大学名誉教授の佐藤直樹氏(70)は社会の空気をこう分析する。

「この1年間、新規感染者の数をずっと目にしてきたことで、もはや数字の増減にリアリティーを感じられなくなっているのでしょう。もちろん自粛疲れもある。でも、一番の問題は政府が国民に対してメッセージをきちんと発信できていないことだと思います。第3波のとき、Go Toキャンペーンをやりながら、他方では自粛を求める動きがあって、国民は二つの矛盾するメッセージを受け取ることになった。いわばアクセルとブレーキが同時に踏まれた状態です。こういうことが積み重なると、人はダブルバインド(二重拘束)に陥ってメッセージの送り手の本気度を疑うようになる。そして、我慢を続けるのがばからしく感じてしまうんです」

 一方、外出することにプレッシャーを感じる人も少なくない。大阪府在住の60代女性は、近所の目が気になり、むやみに出歩かないよう娘を注意することがあるという。

「大阪とはいえ田舎町なので、感染するとすぐに噂(うわさ)が広まってしまう。コロナが怖いというより、コロナに感染して『あそこの家、感染したらしいよ』と噂されるのが怖いんです」

 佐藤氏は言う。

「日本社会は同調圧力が強い。昨年春の第1波のときは、それがステイホームを促し、感染拡大の抑止力としてプラスに作用しました。では、1年前よりも街に多くの人が出ている現在は同調圧力が弱まっているのかというと、そうではないんです。象徴的なのはマスク。いま外に出るとほぼ100%の人がマスクをしていますよね。これは感染防止のためというよりも、『みんながやっているから自分もしなくては』という心の表れと捉えるべきです。社会はますます息苦しくなっています」

(編集部・藤井直樹/ライター・羽根田真智)

AERA 2021年5月3日-10日合併号より抜粋