採用者数と受験者数の推移もみていきたい。

 00年度の小学校は全国の採用者数が3683人で、受験者数は4万6156人。これに対して20年度は、受験者数は4万4710人とそれほど変わらないが、採用者数が1万6693人と4.53倍に増えている。1980年ごろに大量採用されたベテランが退職期を迎えているからだと考えられる。

 教育研究家の妹尾昌俊さんはほかにもいくつかの要因が採用試験の低倍率につながっていると考えている。

「地域によって計画性を欠いた採用活動が行われた可能性や、特別支援教育に対するニーズなどで、これまで以上に教員の頭数が必要とされるといった実情が、ここ数年の低倍率につながっている可能性もあります」

■合格しやすさを「実感」

 ただ、教員採用の大手予備校、東京アカデミー常務取締役の佐川宏治さん(43)は、こう訴える。

「そもそも倍率が低くても筆記試験は8割ほどの正答が求められる自治体がほとんどで、簡単な試験ではありません。メディアを筆頭に倍率議論に流されすぎだと感じます。働きやすさややりがいが、各地の自治体の倍率に反映されているとも思えません。結局はその時点の需給のバランスでしかないので、教職の魅力をきちんと理解して挑戦してもらうことが大切だ」

 その一方で、合格しやすさを実感している大学もある。

「現役合格率88.9%」

 昨年11月、筑紫女学園大学(福岡県太宰府市)のホームページにはこんな文字が躍った。

 この数字は21年度採用に向けて20年に実施した試験の結果で、先に触れた文科省の結果報告の次の年の試験での実績だ。小学校の教員を目指す初等教育コースの54人のうち、48人が福岡県や佐賀県などの採用試験に現役で合格した。

 同大初等教育コースの合格率の推移をみていくと、36.7%(16年)、61.5%(17年)、76.6%(18年)、69.8%(19年)、76.5%(20年)、88.9%(21年)と顕著な上昇傾向がうかがえる。同大の石原努教授はこう説明する。

「大学では本当に教員を目指す人たちが一緒に勉強する自主的な会として試験の対策講座がありますが、この講座への参加者がどんどん増えていったのが一番の要因と考えています」

 しかし、倍率が下がっていることも無関係ではないと、石原教授は考えている。主要な就職先である福岡県教委の20年度採用の試験の倍率は1.6倍。直近の21年度採用では1.4倍とさらに下がっていた。

「かつては『合格してほしいな』『学校の先生になったら輝くだろうな』と思う学生が合格できなかった時代が確かにありました。多くのケースで、1次試験で点数を取れないのが原因でしたが、今は少し合格しやすいという実感はあります」

(編集部・小田健司)

AERA 2021年3月15日号より抜粋