震災後の東北で、ビジネスと地域コミュニティーの再生を融合させた、新たな形のビジネスが生まれている。宮城県石巻市で始まった、カーシェアをきっかけに人々をつなげる取り組みは「石巻モデル」として世界から注目される存在に。このほかにも東北では、注目すべき様々な動きがある。AERA 2021年3月1日号で取材した。
【グラフ】東日本大震災関連の倒産件数と負債総額の推移はこちら
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震災後にコミュニティーの再生などを試みる動きは、石巻市以外でも各地で立ち上がった。東北大学の大滝精一名誉教授は、外部からの起業家らが、ビジネスの手法を使いながら地域の課題を解決していく、被災地のソーシャルビジネスに注目する。
たとえば、宮城県北東部の旧牡鹿町(現石巻市)での「つむぎや」は、牡鹿半島で採れる貝などの素材で生活雑貨やアクセサリーを作り、東京の企業と連携して販売。職を失った女性たちが収入を得るとともに、仮設住宅で孤立するのを防いだ。また、宮城県気仙沼市の「気仙沼ニッティング」は、漁網の修繕などでもともと器用な港町の女性のスキルを、都市部から入ってきた女性が高級ニットに結び付けた。全国はもちろん世界に向けて販売している。
これから販路拡大など厳しい競争が待っているが、一方で同時に、お金で買うことのできないコミュニティーや人間関係の価値を見直そう、心のよりどころとなるようなふるさとをもう一度作り直していこう、という価値の転換も起こり始めている。
大滝名誉教授は、こう強調する。
「こうした活動はまだ道半ばで、社会的役割がこれから大きくなっていきます。自立に向かって復興庁などの財政支援がなお必要です」
一方で、東京商工リサーチの調査によると、東日本大震災の関連倒産は、震災があった11年の544件をピークに漸減しているものの、19年でも44件、月平均では3.6件ペースで、なお続いている。東北地方では宮城県が最も多く、岩手県、福島県が次ぐ。
■原発事故で県外へ避難した企業が自社ブランド展開
福島県では、原発事故で一時県外へ避難した企業が自社ブランドを立ち上げて県内復帰したほか、再生可能エネルギー分野でも存在感拡大を狙う。