「前例踏襲でいいのか」と任命拒否の正当性を主張する菅首相。だが拒否の理由は明かさず、国民への説明責任は果たさないままだ/5日 (c)朝日新聞社
「前例踏襲でいいのか」と任命拒否の正当性を主張する菅首相。だが拒否の理由は明かさず、国民への説明責任は果たさないままだ/5日 (c)朝日新聞社
AERA 2020年10月19日号より
AERA 2020年10月19日号より

 日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命を拒否した菅首相への批判が高まる。政府に批判的な学者を排除する姿勢の背景には何があるのか、AERA 2020年10月19日号で迫った。

【写真】6人の任命拒否を主導したとされる杉田和博官房副長官はこちら

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 日本学術会議の新会員候補6人を任命しなかった政権の判断の背景には何があるのか。

 政権の意識に影響を与えた要因の一つと考えられるのが、同会議が2017年に発表した、学術界での軍事研究のあり方に関する「声明」だ。

 軍事研究で「政府による研究者の活動への介入が強まる懸念」や、研究機関の自律性が損なわれ憲法23条の「学問の自由」が脅かされるとの懸念は、今回の人事をめぐって問題視されているポイントを先取りした感もある。

 この声明をまとめた「安全保障と学術に関する検討委員会」の委員長を務めた政治学者の杉田敦・法政大学教授(61)は、今回の政府対応には「伏線がある」と指摘する。

「私が学術会議に在籍した11~17年に会長だった大西隆さんに対し、官邸が推薦名簿の事前提示を求めたことがありました。私は当時役員だったこともあり、政治的圧力につながり得るようなことは、ただちに公にすべきだと言いましたが、意見は通りませんでした」

 会員の任命をめぐっては、大西会長が17年の会員交代の際に官邸に求められ、選考の最終段階で候補に残る数人を加えた110人超の名簿を官邸に事前に示し、最終的に会議が希望する105人が任命されたことや、16年夏の補充人事の一部が官邸に難色を示され、欠員になったことも判明している。

■科学と軍事の関係模索

 日本学術会議は常に「政治」と向き合ってきた。

 理系から文系まで日本の全分野の科学者を代表する機関として、戦後まもない1949年に発足した日本学術会議は、科学者が戦争に動員された反省から内閣総理大臣の「所轄」で経費は国庫負担としながらも、政府から独立して職務を行う「特別の機関」と規定された。

「そうした経緯もあり、発足当初から、科学者と軍事研究の関係はどうあるべきか、ということが最も大きなテーマであり続けました」(杉田さん)

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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