ライブハウス「磔磔」のステージで肩を組むウィルコ・ジョンソンさん(中央右)と初代店長の水島博範さん。前列左にはギター・仲井戸麗市さんの姿も見える(撮影/三浦麻旅子)
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ドキュメンタリー作品「SWEET HOME TAKUTAKU」の特別編集版「磔磔というライブハウスの話」は、FODやTVerで9月30日まで無料配信中(撮影/西岡浩記)

 店内を覆う木材の一つひとつに、長きにわたる音楽の歴史が刻まれてきた。コロナ禍で変わったライブの考え方を、老舗のライブハウス「磔磔(たくたく)」が投げかける。AERA 2020年10月5日号に掲載された記事を紹介する。

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 築100年を超える木造の酒蔵を改装した店内の壁は、出演したアーティストの名前が書かれた看板で埋め尽くされている。

 京都市内にある「磔磔」。1974年開店の老舗ライブハウスだ。床は酒樽に使われていた木の板でできている。

 世界的にも珍しいこの木造ライブハウスを取材している制作中のドキュメンタリー作品の一部が、特別編集版「磔磔というライブハウスの話」としてフジテレビで8月に地上波放送(関東ローカル)された。

■きっかけはコロナ禍

 作品の案内役として登場するのは、イギリスのパブロックバンド「ドクター・フィールグッド」のメンバーだったギタリスト、ウィルコ・ジョンソンさん(73)。初代店長の水島博範さん(68)を「ブラザー」と呼ぶ関係だ。

「やっぱり楽なんですよ、木製なんて今時ないから」(細野晴臣)、「大きなギターの中にいるみたいな感じだね」(友部正人)、「あれだけ凄い人たちの音が間違いなくしみ込んでいる」(仲井戸麗市)、「日本一のライブハウスです」(遠藤ミチロウ)と、それぞれの言葉で磔磔を語るミュージシャンの顔ぶれから、このライブハウスの歴史が音楽の歴史と重なっていることが伝わってくる。憂歌団に代表される関西ブルースからパンク、その後のローザ・ルクセンブルグや少年ナイフといったニューウェイブへ。それらすべてを磔磔は受け止めてきた。

 本作の制作を手掛けるゼイドンノウ社長の住田ひろ志さん(53)は「ニューオーリンズのR&Bなど、土地や街の成り立ちとそこから出てくる音楽の関係に興味があった。京都は土地と音楽の関係が強い場所」と語る。

 特別編集版放送のきっかけはコロナ禍だった。

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