不妊治療はゴールが見えず、当事者たちのお金や体、心、時間の負担は大きい。まだ法律も未整備で、保険適用以外の議論も必要だ (c)朝日新聞社
不妊治療はゴールが見えず、当事者たちのお金や体、心、時間の負担は大きい。まだ法律も未整備で、保険適用以外の議論も必要だ (c)朝日新聞社

「仕事をする内閣」を標榜し、世論調査で7割を超える支持率の中始動した菅内閣。掲げる目玉政策「不妊治療への保険適用」は実現するのか。現場では期待と不安が交差する。AERA 2020年10月5日号で掲載された記事から。

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 菅義偉首相が自民党総裁選で訴えた「不妊治療の保険適用」。首相就任の翌日にはさっそく田村憲久厚生労働相に検討を指示。就任5日後には生殖補助医療に詳しい医師と面会するなど、本気度が伝わる。

 今年8月に第2子の不妊治療をやめると決断した世田谷区に住む会社員の女性(37)は総裁選に立候補した際の菅氏の訴えを聞いた時、胸が高まった。

「保険が利けば経済的負担がずいぶん軽くなります。いつでも不妊治療を再開できると思うと、心が軽くなりました」

 28歳で結婚し、3年後に不妊治療をスタート。検査をしてみると同い年の夫の精液中の精子の数が少ない状態だとわかった。精子と卵子を体外に取り出した上で受精させ、子宮に戻す「体外受精」を行って1回目で成功。2016年に娘を出産した。出産から1年半後に第2子が欲しくて不妊治療を再開。体外受精や、精子を卵子に直接注入する「顕微授精」を計4度行ったが出産には至らなかった。

■全出生児の17人に1人

 不妊治療の費用は病院によって異なるが、体外受精や顕微授精など生殖補助医療は1回に数十万円かかるといわれる。冒頭の女性がこれまで不妊治療に投じた費用は約500万円に上る。生殖補助医療には国や自治体が費用の一部を助成する制度があるが、女性は夫婦の合計所得730万円未満という対象から外れ、全額自己負担。ゴールの見えない治療に湯水のごとくお金が消えていく中、「できることはすべてやった」と思えたタイミングで不妊治療をやめた。

 日本産科婦人科学会の調査によると、日本では17年、5万6617人が生殖補助医療で誕生している。全出生児(約94万6千人)の16.7人に1人の割合だ。多くのカップルが不妊治療を受けているが、当事者の心身や経済的負担は大きい。

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